アレクサンデル8世 (ローマ教皇)

アレクサンデル8世（Alexander VIII, 1610年4月22日 - 1691年2月1日）は、17世紀後半のローマ教皇であり、その在位期間は1689年から1691年までの短いものでした。本名はピエトロ・ヴィット・オットボーニ（Pietro Vitto Ottoboni）といい、ヴェネツィアの由緒ある名家の出身です。

生涯

オットボーニは、その家柄と才能から早い段階で聖職者の道を歩み始めました。枢機卿を経て、ブレシアの司教に任命されるなど、着実に教会内での地位を確立していきました。教皇選出の背景には、当時のヨーロッパ政治が大きく影響していました。前教皇インノケンティウス11世の死去後、フランス王ルイ14世は、自国に有利な人物を教皇に選出することを望み、その大使を通じてオットボーニの選出を積極的に後押ししました。

教皇アレクサンデル8世は、フランスとの関係を重視する一方で、宗教的な問題では厳格な立場を取りました。特に、ジャンセニスムに対しては強い批判の姿勢を崩さず、1682年にフランスの司教団が発表した「ガリカニスムの4か条」を断罪しました。この「ガリカニスムの4か条」は、フランスの教会がローマ教皇庁から一定の独立性を主張したもので、教皇庁の権威を揺るがしかねないものでした。アレクサンデル8世は、この動きを強く牽制し、教皇権の維持に努めました。

アレクサンデル8世の治世は、教皇庁の財政が非常に厳しい状況に置かれていた時期でもありました。大規模な慈善活動の実施や、親族を要職に登用することが常態化し、財政は破綻寸前にまで追い込まれていました。しかし、教皇自身は学問に対する高い関心を持っており、文化的な活動を積極的に支援しました。その一つが、当時イタリアに滞在していたスウェーデンのクリスティーナ女王からバチカン図書館のために書籍コレクションを購入したことです。このコレクションは、バチカン図書館の蔵書を質的に大きく向上させ、後世の学術研究に多大な貢献をすることとなりました。

1691年2月1日、アレクサンデル8世は死去しました。在位期間は短かったものの、その間には教皇庁の財政難や宗教的な対立、そして文化的な貢献など、様々な出来事がありました。彼の治世は、17世紀後半の教会とヨーロッパ社会の複雑な状況を反映していると言えるでしょう。

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