アレクサンドル・カバネル

アレクサンドル・カバネル：19世紀フランスを代表するアカデミック画家

アレクサンドル・カバネル（1823年-1889年）は、19世紀フランスを代表するアカデミック画家です。フランス南部のモンペリエに生まれ、17歳で名門エコール・デ・ボザールに入学。フランソワ＝エドゥアール・ピコに師事し、高い技量と洗練された画風を身につけました。

華々しいキャリアとアカデミズムの頂点

カバネルは、22歳という若さでローマ賞を受賞。その後、サロン（フランスの公募展）で高い評価を獲得し、フランス学士院会員、エコール・デ・ボザール教授に就任するなど、輝かしいキャリアを歩みました。ナポレオン3世からも厚い信頼を得ており、その寵愛を受けた画家として知られています。数々の栄誉に輝き、1865年、1867年、1878年にはGrande Médaille d'Honneur（最高名誉賞）を受賞するなど、パリ・サロンの中心人物として活躍しました。

アカデミック絵画の傑作と印象派との対立

カバネルは、歴史画、神話画、宗教画、肖像画など幅広い分野で作品を発表しました。その中でも特に有名なのが、『ヴィーナスの誕生』（1863年）です。この作品は、19世紀アカデミック絵画の最高傑作の一つとして高く評価されており、ナポレオン3世によって購入されました。現在、オルセー美術館に所蔵されています。
興味深いのは、カバネルがウィリアム・アドルフ・ブグローと共に、マネなどの印象派の画家たちのサロン出品を拒否したことが、1863年の落選展の騒動に繋がったという事実です。アカデミック絵画の代表者として、印象派とは対照的な存在であったことがわかります。

多様なテーマと洗練された技巧

カバネルの作品は、古典的な主題を扱いながらも、精緻な描写と華麗な色彩感覚で知られています。歴史的場面や神話、聖書物語を題材にした作品からは、アカデミック絵画特有の厳格さと同時に、詩情豊かな表現が感じられます。一方、肖像画においても、人物の個性を繊細に捉えた写実性と、気品あふれる雰囲気が魅力です。

代表作

『モーゼの死』（1851年）ニューヨーク、ダヘッシュ美術館
『ニンフとサチュロス』（1860年）私蔵
『ヴィーナスの誕生』（1863年）パリ、オルセー美術館
『フランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの死』（1870年）パリ、オルセー美術館
『Keller伯爵夫人』（1873年）パリ、オルセー美術館
『フェードル』（1880年）モンペリエ、ファーブル美術館
『オフィーリア』（1883年）私蔵
『カーゾン・オヴ・ケドルストン侯爵夫人』（1887年）イギリス、ケドルストン・ホール
『死刑囚に毒を試すクレオパトラ』（1887年）私蔵
『Eve After the Fall』私蔵
* 『アダムとイヴの楽園追放』私蔵

教育者としての側面

カバネルは、エコール・デ・ボザール教授として、多くの後進を育成しました。彼の指導を受けた画家たちは、後のフランス美術界を担う重要な役割を果たしました。

まとめ

アレクサンドル・カバネルは、19世紀フランス絵画を代表するアカデミック画家として、その高い技量と洗練された芸術性で知られています。数々の傑作を生み出し、アカデミズムの頂点に達した彼の生涯と作品は、フランス美術史において重要な位置を占めています。また、印象派との対立という側面も、彼の存在をより複雑で興味深いものとしています。

もう一度検索