アレクサンドル・シャルル・ルコック

アレクサンドル・シャルル・ルコック（Alexandre Charles Lecocq）は、1832年6月3日にパリで生まれ、1918年10月24日にその生涯を閉じた、フランスを代表するオペレッタ作曲家です。

幼少期から音楽的才能を示し、特にピアノの演奏には熟練していました。1849年、パリ音楽院に入学を許可され、著名な作曲家ジャック・フロマンタル・アレヴィらの指導を受けました。音楽院では理論の分野でも優れた成績を収め、1850年に和声で首席、1852年にはフーガで第2位を獲得しています。

彼の名が初めて広く知られるきっかけとなったのは、当時のオペレッタ界の巨匠ジャック・オッフェンバックが主催した作曲コンクールでした。このコンクールで、ルコックは若き才能ジョルジュ・ビゼーと共同で第1位を受賞しました。受賞作品であるオペレッタ《ミラクル博士（Le Docteur miracle）》は、1857年にレ・ブッフ・パリジャン座で上演され、作曲家としてのキャリアを本格的にスタートさせました。

その後もルコックは意欲的に劇場作品を手掛けましたが、初期の作品は必ずしも大きな成功を収めたわけではありませんでした。転機が訪れたのは1868年の《お茶の花（Fleur de thé）》で、これが100夜にわたるロングラン公演を記録し、彼の評価を確固たるものにしました。続いて1872年に発表された《百人の乙女（Les Cent Vierges）》も好評を博しましたが、その後の作品によって、それまでの成功は完全に霞むことになります。

その作品こそが、1873年にパリとロンドンで初演された《アンゴー夫人の娘（La Fille de Madame Angot）》です。このオペレッタは驚異的な人気を博し、パリでは400日連続公演という記録を打ち立てました。この作品の成功により、ルコックは世界的な名声を確立し、《アンゴー夫人の娘》はその後も長く愛されるレパートリーとなりました。

1873年以降、ルコックは精力的に多数のコミック・オペラを作曲しましたが、残念ながら《アンゴー夫人の娘》ほどの爆発的な人気を博する作品は生み出せませんでした。しかし、その中にも評価の高い優れた作品が数多くあります。

特に出来栄えが良いとされる主な作品には以下のようなものがあります。

《ジロフル＝ジロフラ（Giroflé-Girofla）》（1874年）
《サン＝ジェルヴェの平原（Les Prés Saint-Gervais）》（1874年）
《小さな花嫁（La Petite Mariée）》（1875年）
《小公子（Le Petit Duc）》（1876年）
《コジキ（Kosiki）》（1876年）
《小さなお嬢様（La Petite Mademoiselle）》（1879年）
《昼と夜（Le Jour et la Nuit）》（1881年）
《心と手（Le Coeur et la main）》（1882年）
* 《カナリア諸島の姫君たち（La Princesse des Canaries）》（1883年）

オペレッタやコミック・オペラ以外にも、彼は他のジャンルの作品も手掛けています。1899年にはバレエ音楽《白鳥（Le Cygne）》がパリのオペラ＝コミック座で上演され、1903年にはオペラ《イェッタ（Yetta）》がブリュッセルで上演されました。

日本においては、特に《アンゴー夫人の娘》が古くから知られており、大正時代に隆盛を誇った浅草オペラの重要なレパートリーの一つとして親しまれました。

アレクサンドル・シャルル・ルコックは、オッフェンバック後のフランス・オペレッタ界を牽引した重要な作曲家の一人であり、特に《アンゴー夫人の娘》は今日でもその魅力が色褪せることはありません。

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