オペラ＝コミック座

オペラ＝コミック座

オペラ＝コミック座（Théâtre national de l'Opéra-Comique）は、フランスのパリにある由緒ある劇場です。パリ・オペラ座から東へ約400メートル、2区のファヴァール通り5番地、マリヴォー通りとボイエルデュー広場に囲まれた場所に位置しています。2005年1月には国立劇場となり、その歴史と伝統を今に伝えています。

歴史

創設期

17世紀末、ルイ14世統治下のパリでは、オペラ座やコメディ・フランセーズが王立劇場として貴族社会を彩っていました。一方、市井の人々は、季節ごとに開かれる市場で旅芸人たちの演劇を楽しんでいました。1709年、仮設小屋での公演が禁止されると、サン・ジェルマン市場に劇場が建設され、1714年12月26日、この劇場を拠点とする劇団が「オペラ＝コミック座」を名乗るようになりました。サン・ジェルマン市場は、現在のパリ6区、サン・ジェルマン・デ・プレ修道院の近くに位置していました。

苦難の時代

創設当初、オペラ＝コミック座は経営難に苦しみ、1719年と1722年には公演を休止しました。さらに、王立劇場からの圧力もあり、1745年から1751年までの間は閉鎖を余儀なくされました。この時期の支配人であったジャン・モネは、1758年に台本作家のシャルル・シモン・ファヴァールに交代しました。

コメディ・イタリエンヌとの合併

1762年2月3日、オペラ＝コミック座はオテル・ド・ブルゴーニュ劇場を拠点としていたコメディ・イタリエンヌと合併しました。オテル・ド・ブルゴーニュは、現在のポンピドゥー・センターから西北約500メートルの場所にありました。そして、1783年4月28日、現在の場所に劇場を建設し、「サル・ファヴァール」と名付けました。建設時の名称が「テアトル・イタリアン」であったことから、劇場の北側の通りは「イタリアン大通り」と呼ばれるようになりました。

劇場移転と変遷

フランス革命後の1801年、オペラ＝コミック座は新興のフェイドー劇場と合併し、1840年までサル・ファヴァールを離れ、フェイドー劇場、サル・ヴァンタドール、ヌーヴォーテ劇場で公演を行いました。その間、1820年から翌年にかけては、オペラ座がサル・ファヴァールに一時的に移転しました。1807年、ナポレオンの帝国政府は、オペラ座をレチタティーヴォを用いる伝統的なグランド・オペラ、オペラ＝コミック座を台詞入りの軽いオペラ・コミックと、それぞれの演目を分けました。

焼失と再建

劇場は1838年と1887年の2度焼失しましたが、アルベール・カレ支配人の下、1898年に以前の面影を残しつつ、定員1750人の現在の建物が完成しました。ちなみに、1875年に竣工したオペラ座の定員は2167人です。カレは、1898年から1913年と1918年から1925年の2度にわたり支配人を務めました。

国立劇場連合への統合と再独立

19世紀後半から20世紀にかけて、オペラ＝コミック座は多くのオペラの初演を行いました。その内容はコミカルなものから、グルック、モーツァルト、ワーグナーなどのグランド・オペラまで多岐にわたり、オペラ座との関係はしばしば緊張しました。1939年1月14日の政令により、オペラ座とオペラ＝コミック座は国立オペラ劇場連合（RTLN）の傘下に入り、RTLNの支配人が両劇場を監督することになりました。しかし、翌年からのナチスによる占領下では、RTLNはヴィシー政権に管轄されることとなりました。

1972年、RTLNは赤字が累積したオペラ＝コミック座を閉鎖し、サル・ファヴァールは若年層教育のための「オペラ・ステュディオ」となりました。この時点で、管弦楽団などのカンパニーは解散しました。1976年からは、サル・ファヴァールはオペラ座制作のオペラを上演するようになり、1982年、ようやくオペラ＝コミック座は1939年以前の自主性を回復しました。

国立オペラ＝コミック劇場へ

2005年1月、オペラ＝コミック座は国立オペラ＝コミック劇場（Théâtre national de l'Opéra-Comique）として、新たなスタートを切りました。

18世紀ごろの台本作者・作曲家（抄）

台本作家

ルサージュ（Alain-René Lesage）：『逆転天地』『親しい恋仲』
シャルル＝シモン・ファヴァール：『アネットとリュバン』『包囲されたシテール』『イサベルとゲルトルード』
ルイ・アンソーム：『喋る絵』
ジャン＝フランソワ・マルモンテル：『ユーロン』『ゼミールとアゾール』
ミシェル＝ジャン・スデイヌ：『脱走兵』『獅子王リチャード』

作曲家

ラモー
ピエール＝アレクサンドル・モンシニー：『脱走兵』『思いも寄らず』
フィリドール
グレトリ
ニコラ・ダレーラク：『カミーユ』『レオン』

初演の記録（抄）

オペラ＝コミック座では、数多くのオペラが初演されました。以下はその一部です。

ウフロジーヌとコラダン（ニコラ・メユール）、1790年9月4日
バグダッドの太守（ボワエルデュー）、1800年9月16日
兵隊屋敷（オベール）、1813年2月27日
赤ずきん（ボワエルデュー）、1818年6月30日
転覆した馬車（ボワエルデュー）、1820年4月29日
楽長（フェルディナンド・パエール）、1821年3月29日
エンマ（オベール）、1821年7月7日
白衣の婦人（ボワエルデュー）、1825年12月10日
フラ・ディアヴォロ（オベール）、1830年2月28日
ザンパ（エロルド）、1831年5月3日
ブランヴィリエ侯爵夫人（ボワエルデュー、オベール、エロールほかの共作）、1831年10月3日
プレ・オ・クレール（エロルド）、1832年12月15日
ギュスターヴ三世（オベール）、1833年2月27日
山小屋（アダン）、1834年9月25日
青銅の馬（オベール）、1835年3月23日
閃光（アレヴィ）、1835年3月28日
ロンジュモーの御者（アダン）、1836年
黒いドミノ（オベール）、1837年12月2日
連隊の娘（ドニゼッティ)、1840年2月11日
ザネッタ（オベール）、1840年5月18日
ファウストの劫罰（ベルリオーズ）、1846年12月6日
エイデ（オベール）、1847年12月28日
ル・カイド（トマ）、1849年1月3日
夏の夜の夢（トマ）、1850年4月20日
北極星（マイアベーア）、1854年2月16日
マノン・レスコー（オベール）、1856年2月23日
ディノラ（マイアベーア）、1859年4月4日
リータ（ドニゼッティ）、1860年5月7日
ララ・ルーク（フェリシアン・ダヴィッド）、1862年5月12日
ミニョン（トマ）、1866年11月17日
カルメン（ビゼー）、1875年3月3日
ホフマン物語（オッフェンバック）、1881年2月10日
ラクメ（ドリーブ）、1883年4月14日
マノン（マスネ）、1884年1月19日
いやいやながらの王様（エマニュエル・シャブリエ）、1887年5月18日
イスの王様（ラロ）、1888年5月6日
エスクラルモンド（マスネ）、1889年5月15日
法曹団（メサジェ）、1890年5月30日
アルマンタルの騎士（メサジェ）、1896年5月5日
フェルヴァール（ダンディ）、1897年
サンドリヨン（マスネ）、1899年4月26日
白鳥（ルコック）1899年
ルイーズ（ギュスターヴ・シャルパンティエ）、1900年2月2日
ギマールの冒険（メサジェ）、1900年11月8日
ペレアスとメリザンド（ドビュッシー）、1902年4月30日
アリアーヌと青ひげ（デュカス）、1907年5月10日
フォルテュニオ（メサジェ）、1907年6月5日
風車の心（セヴラック、1909年12月8日
スペインの時（ラヴェル）、1911年5月19日
マルーフ、カイロの靴屋（ラボー）、1914年5月15日
カンテグリ（ロジェ＝デュカス）、1931年2月6日
シラノ・ド・ベルジュラック（アルファーノ）、1936年1月22日
ティレジアスの乳房（プーランク）、1947年6月3日
人間の声（プーランク）、1959年2月6日

挿話

1981年には、三代目市川猿之助らがこの劇場で『俊寛』『連獅子』『黒塚』を上演し、話題となりました。

参考図書

岸辺成夫：『音楽大事典』、平凡社（1983）ISBN 9784582125009
竹原正三：『パリ・オペラ座』、芸術現代社（1994）ISBN 9784874631188

外部リンク

* オペラ＝コミック座のホームページ

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