アレクサンドル・スワニーゼ

アレクサンドル・スワニーゼ：スターリンと影を潜めた生涯

アレクサンドル・セミョーノヴィチ・スワニーゼ。この名は、多くの人々にとって聞き慣れないかもしれません。しかし、彼は20世紀前半のソ連史において、無視できない存在でした。彼はグルジアの革命家、歴史家であり、なんとヨシフ・スターリンの最初の妻、エカテリーナ（カトー）・スワニーゼの弟だったのです。

1886年、グルジア西部の小さな村で小貴族の家に生まれたスワニーゼは、ティビリシで教育を受け、その後ドイツのイェーナ大学でドイツ語と英語を学びました。古代文明の歴史に強い関心を持ち、その研究に没頭する日々を送っていました。

彼の革命家としての歩みは早く始まりました。1901年にはロシア社会民主労働党、1904年にはボリシェヴィキに入党。その後はボリシェヴィキの地下組織で活動し、1919年までグルジアで革命運動に身を投じました。

1920年から1921年にかけてはソビエト連邦外務省で働き、その後はグルジア、ザカフカースの財政担当人民委員という要職に就きました。1924年にはソ連のドイツ通商使節に任命され、ドイツで外交官として活動。1935年に帰国後はソ連邦国立銀行副会長に就任するなど、ソ連政府の中枢で活躍しました。また、1930年代の大半はソビエト外国貿易銀行の頭取を務め、ソ連経済の中核を担っていました。

政治活動と並行して、彼は学究としての活動も精力的に行いました。自身で『古代史ジャーナル』を創刊し、アラロディア語の研究にも取り組みました。さらに、グルジアを代表する中世詩人ショタ・ルスタヴェリの作品をロシア語に翻訳するなど、文化面への貢献も果たしています。

しかし、彼の華々しい経歴は、1937年を境に暗転します。大粛清の嵐がソ連を襲い、スターリンはスワニーゼの逮捕を命じたのです。内務人民委員部から、ドイツのスパイであると自白するよう、命と引き換えに迫られたと言われています。しかし、彼はそれを拒否しました。スターリンは、スワニーゼのこの態度を「貴族のようなプライド」と評したと伝えられています。

そして1941年、ドイツ軍がソ連に侵攻した年、スワニーゼは獄中で処刑されました。彼の妹マリコもまた、同じ運命を辿ったと伝えられています。スワニーゼの妻マリーアは、トリビシ・オペラ・ハウスの歌手でしたが、カザフスタンの収容所で10年の刑に服することになり、処刑の知らせを受けたショックで心臓発作を起こし、亡くなりました。

皮肉にも、スワニーゼの息子のイヴァンは、1957年から1959年まで、スターリンの娘スヴェトラーナ・アリルーエワと結婚していました。この事実は、複雑な歴史の偶然と、スワニーゼの生涯が、いかにソ連という国の歴史と深く結びついていたかを物語っています。

アレクサンドル・スワニーゼの生涯は、革命と権力の影、そして個人と国家の葛藤が複雑に絡み合ったドラマでした。彼の存在は、スターリン体制下のソ連の恐ろしい一面を私たちに突きつけ、歴史の暗闇に消えかけた、ひとりの知性と誇りの物語を私たちに伝えています。

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