アレクサンドル・ネフスキー (映画)

アレクサンドル・ネフスキー：ソ連映画史に残る歴史スペクタクル

1938年、ソビエト連邦で公開された『アレクサンドル・ネフスキー』は、セルゲイ・エイゼンシュテイン監督による歴史映画の金字塔です。13世紀、ロシアを侵略しようとしたドイツ騎士団（チュートン騎士団）を、アレクサンドル・ネフスキー公が率いる軍が打ち破る物語が、壮大なスケールで描かれています。

エイゼンシュタインとプロコフィエフの強力タッグ

本作は、世界的に有名な映画監督セルゲイ・エイゼンシュタインのトーキー映画デビュー作であり、彼の代表作としても広く知られています。共同監督にはドミトリー・ワシリエフ、共同脚本にはピョートル・パブレンコが名を連ねています。エイゼンシュタインが「形式主義」に陥らないこと、そして撮影期間の短縮という二つの目的のために、共同監督・脚本という体制が採られました。

音楽は、かの有名な作曲家セルゲイ・プロコフィエフが担当。プロコフィエフの力強い音楽は、映画の緊迫感をさらに高めています。特に、クライマックスの氷上の戦闘シーンは、プロコフィエフの音楽と見事に融合し、圧倒的な迫力と感動を与えます。いくつかのシーンはプロコフィエフの音楽に合わせて撮影され、また逆に撮影された映像に合わせてプロコフィエフが作曲するなど、映画と音楽の緊密なコラボレーションによって完成しました。マリインスキー劇場芸術監督ヴァレリー・ゲルギエフは、この映画の音楽を「映画のために作曲されたものの中で最高のもの」と絶賛しています。

社会主義リアリズムとナチスドイツへの寓意

本作の脚本は、社会主義リアリズムに忠実な作家ピョートル・パブレンコが執筆しました。この映画は、ロシアを救う民衆の重要性を強調し、貴族や商人といったブルジョア階級を、民衆の敵として描いており、当時のソビエト連邦のイデオロギーを反映しています。

さらに、当時のソ連とナチス・ドイツ間の緊張関係が、映画の寓意として反映されています。ドイツ騎士団の鎧は第一次世界大戦時のドイツ軍のヘルメットに似ており、草稿段階では騎士団の司教のミトラ（冠）に卍マークが描かれる予定だったとされています。これは、ナチス・ドイツへの潜在的な批判と見なすことができます。

撮影の苦労と歴史的影響

映画のクライマックスである氷上の戦闘シーンの撮影は、真夏のモスクワで行われたため、撮影監督のエドアルド・ティッセは、様々な工夫を凝らして冬の情景を作り出しました。フィルターの使用、樹木の着色、砂漠の偽装、そしてアスファルトと溶かしたガラスを用いた氷床の制作など、困難な撮影過程を経て完成されました。

この氷上の戦闘シーンは、その迫力と革新的な撮影技法から、後の多くの映画の戦闘シーンに大きな影響を与えました。『ヘンリィ五世』（1944年）、『スパルタカス』（1960年）、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲|スター・ウォーズ エピソード5_帝国の逆襲』（1980年）など、数多くの作品が本作の戦闘シーンを参考にしています。

公開とその後

1938年12月に公開された『アレクサンドル・ネフスキー』は大成功を収め、公開から数ヶ月で2300万人が鑑賞したと記録されています。しかし、1939年8月23日にソ連とドイツが独ソ不可侵条約を締結すると、一時上映が控えられました。しかし、1941年にドイツがソ連に侵攻すると、再び上映されるようになり、愛国心を高揚させるプロパガンダ映画としての役割を果たしました。

1941年には、エイゼンシュタイン、パブレンコ、チェルカーソフ、アブリコソフの4人がこの作品でソビエト連邦国家賞を受賞。1978年には、イタリアの出版社アルノルド・モンダドリ・エディトーレが世界の映画ベスト100に選出、ロシア・ビヨンドはロシアの戦争映画ベスト10にも選出するなど、高い評価を受けています。

レガシー

『アレクサンドル・ネフスキー』は、映画史に大きな足跡を残しました。その影響は、後世の映画、文学作品などに広く見ることができます。『なぜ我々は戦うのか：バトル・オブ・ロシア』（1943年）などの映画ではシーンが流用され、『ウディ・アレンの愛と死』（1975年）ではスコアが使用されるなど、様々な形でその影響が確認できます。氷上の戦闘シーンは、『ドクトル・ジバゴ』（1965年）、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲|スター・ウォーズ エピソード5_帝国の逆襲』（1980年）など、多くの作品に影響を与えています。

『アレクサンドル・ネフスキー』は、歴史的事実を基にしながらも、当時のソ連の政治状況やイデオロギーを反映した、時代を象徴する作品と言えるでしょう。その芸術性と歴史的意義から、今日もなお世界中で高く評価されています。

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