セルゲイ・エイゼンシュテイン

セルゲイ・エイゼンシュテイン：ソ連映画の巨匠とその波乱に満ちた生涯

セルゲイ・ミハイロヴィチ・エイゼンシュテイン（1898年1月23日 - 1948年2月11日）は、ソビエト連邦を代表する、世界的に名高い映画監督です。ロシア帝国領リガに生まれた彼は、複雑な出自を持っていました。高祖父母の代にドイツ系ユダヤ人とスウェーデン系の血を引いており、曾祖父母の代には既にユダヤ教から東方正教会に改宗していたため、「バルト・ドイツ人」と呼ばれることもありました。ユダヤ系の名前を持つことからユダヤ人として紹介されることも多いですが、彼は出生直後にキリスト教の洗礼を受けており、自身はユダヤ教徒として生きていたわけではありません。

エイゼンシュテインの父はサンクトペテルブルク出身の建築家で、ロシア正教会に属するユダヤ人の末裔でした。幼少期はリガで過ごし、リガ市立実科学校、ペトログラード土木専門学校建築科へと進学します。1918年には赤軍に入隊し、アマチュア演劇に携わった後、一時参謀本部アカデミーで日本語を学ぶという経験も積んでいます。この経験が、後の映画監督としてのキャリアに大きな影響を与えたとされています。

1920年、モスクワに移住したエイゼンシュテインは、プロレタリア文化協会の第一労働者劇場で美術担当として活動を始めます。その後、名演出家フセヴォロド・メイエルホリド率いる国立高等演劇工房で演劇を学び、数々の演劇美術を手掛けました。この間、メイエルホリドの助手として働きながら映画の勉強を続け、1924年には国家映画委員会の仕事で『ストライキ』を製作します。

1925年、彼の名を世界に知らしめる代表作『戦艦ポチョムキン』を発表します。この作品で彼は独自のモンタージュ理論を確立させました。これは、映画製作理論における画期的な発明であり、観客の感情を揺さぶる映像言語の基礎を築いたと評価されています。このモンタージュ理論は、彼が日本語教師から学んだ漢字の持つ抽象的な概念表現にヒントを得たものだとも言われています。エイゼンシュテインは日本の映画についても言及しており、1920年代の日本映画を「米国映画の真似ばかり」と批判するなど、強い関心を示していました。

『戦艦ポチョムキン』に続く成功作として、『十月』（1928年）や『アレクサンドル・ネフスキー』（1938年）などを発表。そして彼の代表作として名高い未完の3部作『イワン雷帝』（1944年、1946年）は、イヴァン4世の生涯を描いた力作で、第一部はスターリン賞を受賞するも、第二部はスターリンの怒りを買い上映禁止となりました。エイゼンシュテインはスターリンに呼び出され、改作と第三部の製作を約束させられますが、その後は後進の指導に専念し、事実上製作を放棄することになりました。

ハリウッドとの交流も深いエイゼンシュテインは、メアリー・ピックフォードやダグラス・フェアバンクス、チャールズ・チャップリンらとも親交を深めました。しかし、アメリカ人の聴衆に向かってハリウッド映画を痛烈に批判したことで、以降ハリウッドからの招聘を受けることはありませんでした。一方で、ディズニーの『白雪姫』を絶賛するなど、映画に対する鋭い批評眼を持っていました。

1948年、50歳の若さで心臓発作によりモスクワで死去。ソビエト連邦の映画発展に多大なる貢献をしたエイゼンシュテインは、映画史上にその名を刻む偉大な映画監督として今も記憶されています。彼の作品は、モンタージュ理論という革新的な手法と、歴史や社会への深い洞察に満ち、現在も世界中で高い評価を受けています。彼の業績は、数々の書籍や映画研究によって後世に語り継がれ、今もなお多くの映画作家に影響を与え続けています。

もう一度検索