アレクサンドル・プロミオ

アレクサンドル・プロミオ（Alexandre Promio）

ジャン・アレクサンドル・ルイ・プロミオ（通称アレクサンドルまたはサッシャ）は、1868年7月9日にフランスのリヨンで生まれ、1926年12月24日にアニエール＝シュル＝セーヌでその生涯を終えた、初期映画の先駆者の一人です。特に、リュミエール兄弟のシネマトグラフを用いた活動写真において、重要な撮影技師（オペレーター）として活躍しました。フェリックス・メスギッシュやフランシス・ドゥブリエらとともに、映画黎明期の映像記録を担ったパイオニアとして位置づけられています。

イタリアにルーツを持つプロミオは、リヨンのマルティニエール学校で学びました。写真に興味を持つ前は、郵便・電信の職員やシャンパーニュ・メルシエの代理商など様々な職を経験しています。また、歌手であった妻ジュリエット・プロミオ＝エヴラールと共に音楽活動も行い、バリトン歌手として地元の評判を得ていました。

写真、そして新しい技術であったシネマトグラフへの関心を深めたプロミオは、1896年初頭にルイ・リュミエールと接触します。リュミエールはプロミオの能力を高く評価し、活動写真の製作と普及における重要な役割を任せました。短期間のうちに、プロミオはリュミエール社の映画部門の責任者となり、1896年3月からは最初の映画オペレーターたちの訓練を担当するようになります。

世界を巡る撮影活動

フランス国内での数回の上映を経て、プロミオは本格的な海外撮影へと乗り出しました。彼は撮影技師としての技術を磨きながら、1896年6月にはスペインで最初の風景撮影を行いました。バルセロナやマドリードで活発に撮影を行い、特に軍事的な情景の撮影においては、摂政王母マリア・クリスティーナからの強い後押しを受けました。

1896年6月から1897年9月にかけての1年以上にわたり、プロミオはルイ・リュミエールの指示の下、世界各地を旅してリュミエール社の活動写真カタログを充実させることに尽力しました。彼は、日常的な風景を捉えたドキュメンタリー映像に加え、ニュース性の高い出来事も精力的に記録しました。イングランドではモード王女の結婚式を撮影し、その後アメリカ合衆国へ渡りました。ニューヨークからボストン、ナイアガラの滝、シカゴへと移動し、ブルックリン橋からの眺めや警察のパレード、市場の様子など、およそ20本もの作品を制作しています。

移動ショットとその意義

アメリカに続いてイタリアを訪れたプロミオは、ヴェネツィアで最も有名な作品群を撮影しました。ボート上から撮影された大運河とサン・マルコ広場のパノラマ映像です。これらの映像は、後世の映画表現に大きな影響を与えた「移動ショット（パノラマ・リュミエール）」の初期の例として知られています。一般的にはプロミオが移動ショットの最初の実践者と思われがちですが、実際には彼に先立つコンスタン・ジレルが、1896年9月にケルンでライン川を下るボートから同様のパノラマ撮影を行っていました。しかし、ジレルの撮影は偶然的かつ手抜きによるものだったとされ、後に怠惰を理由にリュミエールから解雇されています。一方、プロミオは移動撮影が映画にもたらす可能性を深く理解しており、その普及に積極的に取り組み、この技術の最初の理論家とも言える存在でした。

その後もプロミオは地中海沿岸各地を数ヶ月にわたり旅し、アルジェ（1896年12月）、中東やエジプト（1897年3月）などで撮影を続け、リュミエールのカタログに多数の作品を提供しました。エジプトではナイル川沿岸のパノラマ映像を8本シリーズで制作するなど、その活動は多岐にわたりました。

1897年5月から6月にかけては、ブリュッセルの大通りといった一般的な風景に加え、重要なニュース映像も撮影しました。ストックホルムでの総合芸術及び産業博覧会（1897年5月～10月）、ヴィクトリア女王の在位60周年記念行事（1897年6月）、フランス大統領フェリックス・フォールのロシア訪問（1897年8月）などを記録し、1897年秋にはアイルランドやイングランドの産業風景も撮影しました。

スウェーデンでの貢献

リュミエールのシネマトグラフは、一般公開と並行して各国の王族や要人向けの上映も重視しており、撮影した映像をその日のうちに映写して見せるというサービスも行っていました。プロミオは1897年夏にストックホルムを訪れ、この方式でリュミエール社の技術を博覧会で披露しました。この際、彼はスウェーデン初の映画製作者であるエルネスト・フローマンに撮影技術を教えるなど、現地の映画発展にも寄与しています。特に、1897年5月15日に国王オスカル2世らの博覧会会場到着を撮影した映像は、スウェーデン初のニュース映画とされています。また、スウェーデン滞在中には、同国初のストーリー性のあるフィクション映画とされる『Slagsmål i Gamla Stockholm』（ストックホルム旧市街での喧嘩）も制作しました。

劇映画制作とフォトラマ事業

パリに戻ったプロミオは、美術家のマルセル・ジャンボンや「監督」ジョルジュ・アトと協力し、「構成された作品」、すなわち初期の劇映画の製作を指揮しました。商業的な競争、特にジョルジュ・メリエスとの競合の中で、リュミエール社のフィクション作品を手がけました。1897年秋には、絵画作品に着想を得た『ギーズ公の暗殺』、『最後の弾薬』、『ネロの毒見』、『マラーの死』などを撮影。そして、1898年秋に制作された『イエス・キリストの生涯と受難』シリーズは、競合他社も手がけた人気テーマであり、特にゴーモン社でアリス・ギイが監督した同テーマの作品は、後の歴史劇（ペプラム）の先駆けとなりました。

精力的な活動の傍ら、世紀末にはやや落ち着いた生活を送るようになります。写真術に関する著作を雑誌に発表したり、メルシエの代理商を続けたりしました。1898年には教育功労章を受章しています。この頃の撮影活動はヨーロッパ中心となり、1901年のヴィクトリア女王葬儀などを記録しています。

リュミエール兄弟が特許を取得した360度パノラマ写真システム「フォトラマ」の事業にも深く関わりました。1902年にパリに専用施設が開設され、プロミオは後に「ペリフォト・フォトラマ協会」を設立してこの新しい発明の普及を図りました。しかし、事業は期待通りの成果を上げられず、1907年の施設閉鎖時にはほとんど注目されませんでした。

その後のキャリアと晩年

フォトラマ事業の失敗後も動画の未来を信じたプロミオは、実業家として新たな会社の経営に携わります。短期間「ラ・パブリシテ・アニメ」に勤めた後、パテ・フレール社のライバルであった「コンパニー・テオフィル・パテ」に関与しました。創設者の経営難に乗じ、プロミオは撮影監督としての経験を買われ経営責任者に就任。彼の指揮下で多くのドキュメンタリーやフィクション映画が制作されましたが、会社の財政は悪化し、プロミオは経営から退き、会社自体も1913年に解散しました。

度重なる事業の失敗と新たな私生活の変化から、プロミオはアルジェリアに移住し、人生の大部分をそこで過ごすことになります。一時は歌手活動に戻りますが、第一次世界大戦後、フランスの航空会社で写真業務に携わった後、アルジェリア行政の写真撮影サービスの責任者に任命されます。1924年に出版されたカタログには約3,000枚の写真と38本のドキュメンタリー映画が収録されており、この時期に彼はアルジェリアの宣伝活動に尽力しました。

晩年は病を得てフランスに戻り、パリ近郊に隠棲しました。公の場に姿を見せた最後の機会は、1925年にルイ・リュミエールが行った講演会でした。死去は1926年12月24日ですが、その訃報が専門誌に掲載されるまでには数ヶ月を要しました。初期映画の記録者として世界中を駆け巡った彼の生涯は、その没後に徐々に再評価されることとなります。

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