アレクサンドル・モイセエフ

アレクサンドル・アレクセイェヴィチ・モイセエフ（Александр Алексеевич Моисеев）は、1962年4月16日生まれのロシア海軍の将校です。現在、海軍大将の地位にあり、ロシア海軍総司令官を務めています。彼のキャリアは、初期のフィルム修理技術者としての経験から始まり、その後、海軍工科大学での学びを経て、潜水艦乗組員としての道に進みました。

初期のキャリアと潜水艦乗組員としての活動

モイセエフは、カリーニングラード州のボルスコエ集落で生まれ、映画専門学校と技術学校を卒業後、フィルム修理店で働いていました。1981年に兵役についた後、1982年から1987年にかけて海軍無線電子大学で学びました。1987年6月からは北方艦隊に配属され、戦略原潜の電子戦部門でコンピュータエンジニアとして勤務しました。その後、同部門の責任者や、弾道ミサイル潜水艦の戦闘管制上級補佐官を歴任しました。

1994年には、潜水艦「K-18カレリア」の指揮官上級補佐官として北極点への航海に参加し、潜水艦が浮上した際にロシア海軍旗と国旗を掲げました。この功績により勇敢勲章を受章しました。1997年からは、弾道ミサイル潜水艦「K-407ノヴォモスコフスク」の指揮を執り、1998年7月7日には、バレンツ海に潜航中にシティル運搬ロケットを用いて2つのドイツの商用小型衛星を打ち上げました。これは、潜水艦から商用ペイロードを軌道に送った初の事例であり、ロシア海軍史上初の商用宇宙打ち上げとなりました。

その後の昇進と指揮官としての実績

モイセエフは、2001年にクズネツォフ海軍大学校に入学し、2003年に優秀な成績で卒業しました。その後、北方艦隊の潜水艦師団の参謀長や司令官を務めました。2008年には、ロシア潜水艦リャザンが北方艦隊から太平洋艦隊に転属する際、上級士官として北極の氷の下で長期間潜航しました。この功績により、二度目の勇敢勲章を受章しました。2009年には参謀本部軍事アカデミーに入学し、2011年に第一級の成績で卒業しました。

2011年2月14日には、ロシア連邦英雄の称号を授与されました。これは、彼の指揮下での最新兵器のテスト成功や、一連のロケット発射が評価されたものです。メドベージェフ大統領（当時）は、これらの演習を「非常に高い水準で行われた」と評しました。

将官としての活動と黒海艦隊司令官

2011年6月、モイセエフは北方艦隊の潜水艦部隊の副司令官に任命され、2012年4月には司令官となりました。その後、少将に昇進し、ムルマンスク州アレクサンドロフスクの議員評議会の議員も務めました。2016年4月には、北方艦隊参謀長に任命され、2017年にはロシア連邦軍参謀本部次長に任命されました。2018年5月には黒海艦隊司令官代理に就任し、後に正式に同艦隊司令官となりました。彼は黒海艦隊の拡大期を監督しました。モイセエフは、二度の勇敢勲章に加え、軍事功労勲章や「祖国功労勲章」二等も受章しています。

ウクライナとの関係と北方艦隊司令官、そして海軍総司令官へ

モイセエフは、2014年以降のロシアのウクライナへの軍事介入や、2018年11月のケルチ海峡事件に関与したとして、ウクライナとの関係で物議を醸しました。2019年2月には、ウクライナ保安庁から「侵略戦争または侵略的な軍事行動に関与した」疑いで通告を受けました。しかし、2019年5月にはニコライ・エフメノフ提督の後任として北方艦隊司令官に任命され、2020年12月には海軍大将に昇進しました。2024年3月には、ロシア海軍総司令官代理に任命され、同年4月には正式にロシア海軍総司令官に就任しました。

モイセエフは、潜水艦乗組員からロシア海軍のトップに上り詰めた人物であり、そのキャリアは数々の功績と同時に、国際政治の複雑な情勢とも深く関わっています。彼の今後の動向は、ロシア海軍だけでなく、世界の安全保障にも大きな影響を与えると考えられます。

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