アレックス・ボレイン

アレキサンダー・ライオネル・ボレイン

アレキサンダー・ライオネル・ボレイン（Alexander Lionel Boraine, 1931年1月10日 - 2018年12月5日）は、南アフリカ共和国の著名な政治家であり、熱心な反アパルトヘイト活動家でした。ケープタウン大学およびニューヨーク大学で客員教授も務め、その活動は国内外多岐にわたりました。

生い立ちと教育

ボレイン氏は1931年1月10日、ケープタウンの、経済的に恵まれない白人家庭に生を受けました。厳しい環境の中で育ちましたが、勉学に励み、1956年に23歳でローズ大学を卒業。その後、メソジスト教会の聖職者としての道を歩み始めます。彼の才能と熱意は教会関係者の目に留まり、篤志家からの援助を得て、さらに高度な学問を修める機会に恵まれます。オックスフォード大学で修士課程を、そしてアメリカ合衆国のドルー大学で博士課程を修了し、哲学博士号（PhD）を取得しました。ドルー大学での研究テーマは組織神学および聖書学に及び、その深い学びは後の彼の活動の思想的基盤となりました。

教会および企業での活動

博士号を取得した1966年、ボレイン氏は南アフリカ南部のメソジスト協会協議会の代表の職に就きます。さらに1970年には、南アフリカメソジスト協会協議会の会長の座に、当時の最年少として就任し、3年間にわたりその重責を担いました。当時の南アフリカメソジスト教会はアパルトヘイトの社会構造の中にありましたが、ボレイン氏は「教会は肌の色に関わらず、すべての人が集う場所であるべきだ」との強い信念を抱いていました。この信念に基づき、彼は実際に黒人鉱山労働者たちの現場に足を運び、劣悪な労働環境の実態を広く訴え、改善を強く求めました。彼のこうした行動は、当時の教会内部や社会に大きな波紋を投げかけました。

教会での活動の延長線上として、1972年には大手鉱山企業アングロ・アメリカンのハリー・オッペンハイマーから招請を受けました。企業内部から黒人労働者たちの待遇改善に取り組むというユニークな役割を託されたボレイン氏は、2年間にわたりその任務にあたり、労働環境の向上に尽力しました。

政治家としてのキャリア

1974年、ボレイン氏は政治の世界へ転身し、野党である進歩党から立候補して国会議員に当選を果たしました。議会の場においても、彼は一貫してアパルトヘイト政策への反対の声を上げ続けました。しかし、1986年には、当時の国会が白人以外の国民の声に真に耳を傾けていない現状を批判し、議員職を辞任するという劇的な行動に出ました。これは、単なる議席に留まるのではなく、より根本的な社会変革を目指す彼の強い意志を示すものでした。

国会を去った後も、ボレイン氏は反アパルトヘイト運動への関与を深めました。1995年まで、アパルトヘイトに反対する運動を支援する非営利組織（NPO）の会長として活動を続け、草の根レベルでの民主化運動を支えました。

真実和解委員会とその後

アパルトヘイト終焉後の南アフリカにおいて、過去の清算と国民的和解のために設立された真実和解委員会（Truth and Reconciliation Commission: TRC）は極めて重要な役割を果たしました。ボレイン氏は1995年、この歴史的な委員会の副委員長に就き、委員長であるデズモンド・ツツ大主教と共に、アパルトヘイト下で行われた人権侵害の調査と、加害者および被害者双方からの証言聴取という困難な作業を主導しました。1998年まで続いたこのプロセスは、南アフリカ社会が過去と向き合い、未来へと進むための礎となりました。

真実和解委員会の活動終了後も、ボレイン氏の公共への奉仕は続きました。彼はニューヨーク大学法学部で教鞭を執り、その経験と知識を次世代に伝えました。さらに、移行期正義の概念を世界に広めるため、国際移行期正義センター（ICTJ）を設立。その初代会長および南アフリカ事務所長として、紛争後や権威主義体制崩壊後の社会における正義と和解のプロセスを支援するため、3年間にわたり国際的な活動を展開しました。

著書

彼の真実和解委員会での経験は、著書『国家の仮面が剥がされるとき 南アフリカ「真実和解委員会」の記録』（2008年、第三書館）にまとめられています。この本は、南アフリカの和解プロセスを知る上で貴重な資料となっています。

アレキサンダー・ボレイン氏は、教会人、企業人、政治家、そして和解の推進者として、多方面から南アフリカにおける人種差別の撤廃と人権の回復のために尽力しました。彼の生涯は、困難な状況下でも信念を貫き、社会変革のために行動し続けることの重要性を示しています。

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