アレッサンドロ・ストラデッラ

アレッサンドロ・ストラデッラ（Alessandro Stradella, 1644年 10月1日ローマ生 - 1682年2月25日ジェノヴァ没）は、イタリアの盛期バロック音楽を代表する作曲家の一人です。その短い生涯は音楽における重要な業績と、破滅的なまでに波乱に満ちた私生活とが劇的に交錯しており、しばしばカルロ・ジェズアルドの人生と比較されます。

生涯

ストラデッラの幼少期に関する確かな記録は少ないものの、貴族階級の出身であり、ボローニャで質の高い音楽教育を受けたとされています。早くからその才能は認められ、わずか20歳でスウェーデン女王クリスティーナからの作品委嘱を受けるほどでした。

1667年頃、ローマに移り住んだ彼は、特に宗教音楽の分野で精力的に作曲活動を行いますが、その一方で放蕩な生活に溺れていきます。ついには悪友と共にカトリック教会の財産を横領したことが露呈し、ローマからの逃亡を余儀なくされます。しばらく時が経ち、安全になったと判断してローマに戻りますが、再び軽率な行動により破滅へ向かいます。今度は立て続けに多くの女性と関係を持ったことが、ローマの有力者たちの激しい怒りを買い、二度と戻ることのできない状況に追い込まれて、再び街を後にすることになります。

1677年にはヴェネツィア共和国へと逃れ、そこで一人の高貴な人物に雇われ、その愛人である女性の音楽教師となります。しかし、世間の予想通り、彼はまたもやこの女性と関係を持ってしまいます。それが明るみに出ると、再び命の危険を感じて逃亡生活に入ります。激怒したヴェネツィアの貴族は、刺客を雇ってストラデッラの抹殺を命じますが、彼はこの追跡を間一髪で逃れることに成功します。

その後、ジェノヴァに辿り着いたストラデッラは、オペラやカンタータの作曲家として新たな活動を開始します。しかし、過去の過ちから学ぶことなく、再び女性との関係に深入りした結果、遂に雇われた暗殺者たちに捕らえられ、あっけなく刺殺されて生涯を閉じました。

ストラデッラのこの波乱に富んだ生涯と血塗られた最期は、真実がどこまで正確に伝えられているかは定かではないものの、それ自体が魅力的な物語として語り継がれ、複数の作曲家によってオペラの題材とされました。中でも、フリードリヒ・フォン・フロトー作曲のオペラ《アレッサンドロ・ストラデッラ》（1844年、ハンブルク初演）が最も有名です。

音楽的業績と作風

ストラデッラは生前、同時代の音楽家に対して非常に大きな影響力を持っていた作曲家でした。しかし、18世紀に入ると、その名声はアルカンジェロ・コレッリやアントニオ・ヴィヴァルディといった後進の作曲家たちの陰に隠れてしまいます。

彼の音楽史における最も重要な貢献の一つは、合奏協奏曲（コンチェルト・グロッソ）の様式の原理を確立した点にあると考えられています。「コンチェルト・グロッソ」という言葉自体が初めて楽譜の出版に使われたのはコレッリの作品ですが、ストラデッラはそれ以前に、自身の作曲した《弦楽のためのソナタ》（Sonate di viole）や、オラトリオ、カンタータの一部において、既にこの様式の基本的な考え方、すなわち小アンサンブル（コンチェルティーノ）と大アンサンブル（リピエーノ）が対比される原理を明確に用いていました。ストラデッラとコレッリは互いに面識があったとされており、ストラデッラからコレッリへの直接的な影響があった可能性は十分に考えられます。

ストラデッラは、少なくとも6曲のオペラに加え、膨大な数のカンタータやオラトリオを作曲しました。また、27曲の器楽曲も残しており、その多くは教会ソナタの構成に基づいています。彼の作品は、メロディーの美しさ、劇的な表現、そして器楽書法における革新性によって特徴づけられます。

音楽における先駆的な才能と、その劇的な生涯が相まって、アレッサンドロ・ストラデッラはバロック音楽史において、忘れがたい存在感を放っています。

もう一度検索