アルカンジェロ・コレッリ

アルカンジェロ・コレッリ（Arcangelo Corelli, 1653年2月17日 - 1713年1月8日）は、17世紀後半から18世紀初頭にかけて活躍したイタリアの作曲家であり、卓越したヴァイオリニストでもありました。その名はコレルリ、コレルリ、コレリなど様々に記されることがあります。彼はアレッサンドロ・スカルラッティより7歳、アントニオ・ヴィヴァルディより25歳、そしてゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルより32歳年長にあたり、後続世代に大きな影響を与えたバロック音楽の巨匠の一人です。

生涯

コレッリは1653年、現在のラヴェンナ県にあるフジニャーノで生まれました。彼の人生の初期については詳しい記録が少なく、特に13歳でボローニャに移るまでの情報はあまり知られていません。しかし、17歳でボローニャのアカデミア・フィラルモニカの会員となって以降、その活動が明確になっていきます。彼の家系は個性的であったと伝えられており、暴動の首謀者として処刑された者もいれば、聖職者や法律家、医学者、詩人などを輩出した多様な一族でした。コレッリが生まれる数週間前に同名の父を亡くしたため、彼は母の実家で兄弟と共に育ちました。幼少期にはファエンツァの教会で教育を受けた可能性があり、その後ウーゴを経て、1666年には当時イタリア器楽音楽の中心地であったボローニャに移り住みます。ここでヴァイオリン奏法をベンヴェヌーティに、音楽家としての教養をブルノーニから学んだとされていますが、ヴァイオリンの師がジョヴァンニ・バッティスタ・バッサーニであったとする説もあり、彼の音楽教育の詳細は不明な点が多いです。作曲については、教皇礼拝堂付き歌手であったマッテオ・シモネッリに師事しました。

彼は自身の初期作品で「フジニャーノ生まれでボローニャの人」と名乗っていましたが、ボローニャでの確実な滞在期間は1666年から1670年の4年間と考えられています。19歳の時、コレッリはパリで大きな成功を収め、これによりヨーロッパでの名声の足がかりを築きました。22歳になった1675年にはローマへ移り、サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会でヴァイオリニストとして活動を開始。1679年、26歳でカプラニカ劇場にて友人のオペラのオーケストラを指揮し、その演奏はフランスの音楽家ラゲネに「ヴァイオリン、チェンバロ、テオルボのそれぞれにおいて世界第一人者」と絶賛されるほどでした。

その後、コレッリはドイツへの旅も経験し、1681年にはバイエルン選帝侯に仕えた記録があります。1680年から1685年にかけての時期は、友人のクリスティアーノ・ファリネッリ宅で多くの時間を過ごし、この頃が作曲家としての円熟期とされています。1681年の作品1「トリオ・ソナタ集」を皮切りに、作品番号を持つ代表作を次々と発表し、器楽曲の作曲家としての地位を確立しました。1685年からはローマに戻り、スウェーデン女王クリスティーナのための音楽公演を指揮したり、ピエトロ・オットボーニ枢機卿（後のローマ教皇アレクサンデル8世）の厚い庇護を受けました。1689年から1690年にはモデナに滞在し、モデナ公からも手厚い待遇を受けました。1700年にローマで出版された作品5「ヴァイオリン・ソナタ集」は、ヨーロッパ中でベストセラーとなり、度々再版されました。1708年にローマに戻ったコレッリは音楽活動からの引退を表明し、以降はオットボーニ枢機卿邸で穏やかな晩年を過ごしました。同年には国王の招きでナポリを訪れています。

コレッリは1713年に59歳でこの世を去りました。彼は莫大な財産を残しており、12万マルクもの現金に加え、ブリューゲルやプーサンなどの価値ある絵画コレクション（136枚）、そして楽器類を所有していましたが、これらが彼にとって唯一の贅沢であったと伝えられています。遺産は後援者、召使、友人に譲られましたが、友人はそれをコレッリの親類に返還しました。彼の墓はローマのパンテオンにあります。

音楽と影響

コレッリは、合奏協奏曲、トリオ・ソナタ、ヴァイオリン・ソナタといった器楽形式の発展に決定的な役割を果たしました。彼自身が生み出し、フランチェスコ・ジェミニアーニやピエトロ・ロカテッリをはじめとする多くの弟子たちによって受け継がれた演奏様式は、ヴァイオリン演奏史において極めて重要な位置を占めます。しかし、コレッリ自身の演奏は比較的控えめであったとも言われています。彼の作品に見られるヴァイオリンパートは、高音域の使用が限定的で、例えば作品6-1の急速楽章でも最高音は第四ポジションのホ音（E）を超えることがありませんでした。伝承によれば、ヘンデルのオラトリオのある箇所の極めて高い音（アルティッシモのイ音）の演奏を拒否し、その音の使用を「技術の誇示」として批判したとされています。

その作曲は、室内楽の歴史に新たな時代を切り開きました。ジュゼッペ・トレッリ、トマゾ・アルビノーニ、アントニオ・ヴィヴァルディといった後続の作曲家たちは、コレッリのスタイルを模範としたトリオ・ソナタ集を最初の作品集として出版しています。ヴィヴァルディのベストセラーとなった作品3『調和の霊感』（1711年）も、コレッリの様式を継承したものです。その影響はイタリア国内に留まらず、ヨハン・ゼバスティアン・バッハはコレッリの作品を熱心に研究し、作品3の主題に基づくオルガンのためのフーガBWV.579を作曲しました。また、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルにも最も大きな影響を与えた人物の一人として挙げられます。コレッリはローマの音楽界の中心人物であり、貴族社会に広く受け入れられ、オットボーニ枢機卿邸での有名な「月曜演奏会」を長年主催していました。

生前はヴィヴァルディの方がより広く知られていましたが、オーストリア継承戦争中のウィーンでの不遇な死を経て忘れ去られたのに対し、コレッリはパトロンの庇護もあってその名声は死後も保たれました。作品番号付きの作品はヴァイオリン教育の現場で教材として使われ続け、新古典主義時代にはヴィヴァルディよりも遥かに高い評価を受けていました。彼の音楽は後世の様々な作品にも影響を与えており、セルゲイ・ラフマニノフの「コレッリの主題による変奏曲」や、八村義夫の「ラ・フォリア」などにその痕跡を見ることができます。

作風と作品

コレッリの作品は、流れるような美しい旋律と、伴奏パートの丁寧で洗練された扱いが特徴です。これは、彼が当時の厳格な対位法の規則から自由なアプローチを取ったことによると言われています。彼の残した作品のほとんどは弦楽器と通奏低音のためのものであり、死後出版されたトランペット・ソナタが唯一の管楽器を含む作品です。彼の様式には、既に旋法的な対位法ではなく、現代の調性的な対位法の萌芽が見られます。

特に有名なのは、48曲のトリオ・ソナタ（作品1、2、3、4）、ヴァイオリンと通奏低音のための12曲のソナタ（作品5）、そして12の合奏協奏曲（作品6）です。これらの出版された作品は、作品1から作品6まですべてが器楽曲です。中でも作品5の「ヴァイオリン・ソナタ集」（特にニ短調の「ラ・フォリア」を含む）は広く愛好されました。合奏協奏曲集作品6も人気が高く、特に第8番ト短調は「クリスマス協奏曲」として有名で、映画のサウンドトラックに用いられることもあります。また、小説『コレリ大尉のマンドリン』でも彼の音楽が話題に上ります。

コレッリの全作品は録音でもCD12枚程度に収まるほど非常に少なく、多くの作品が生前に本人によって破棄されたのではないかと考えられています。しかし、その正確な理由は不明のままです。最も有力な説としては、パトロンが作品の推敲を十分に許し、納得がいくまで何度も書き直すことができたため、完成度の低い作品は世に出さなかったというものです。彼の作品に密度が高く洗練されていることを考えると、これは十分にありえる話です。

生前発表された主要作品
トリオ・ソナタ集 作品1（教会ソナタ、全12曲、1681年出版）
トリオ・ソナタ集 作品2（室内ソナタ、全12曲、1685年出版）
トリオ・ソナタ集 作品3（教会ソナタ、全12曲、1689年出版）
トリオ・ソナタ集 作品4（室内ソナタ、全12曲、1694年出版）
ヴァイオリン・ソナタ集 作品5（全12曲、ニ短調「ラ・フォリア」含む、1700年出版）
合奏協奏曲集 作品6（全12曲、第8番は「クリスマス協奏曲」、1712年献呈、1714年没後出版）

この他にも、作品番号のないいくつかの作品（WoO）や、近年再発見された作品も存在しますが、その数は極めて限られています。

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