アレッチ氷河

アレッチ氷河：アルプス最大の氷河

アレッチ氷河は、スイスのヴァレー州に位置するアルプス山脈最大の氷河であり、ヨーロッパ大陸西部においても最大級の規模を誇ります。ユングフラウ、マッサ川の峡谷、メルジェレン湖、そしてアレッチホルンといった山々に囲まれたこの氷河は、壮大な自然景観を形成しています。

概要

アレッチ氷河は、長さ約23.6km（2001年時点）、面積117.6km²（国際自然保護連合の資料では128km²）、水の総重量は270億トンにも及びます。氷河の中心部は年間180〜200mの速度で前進しており、周囲には標高4000m級の山々がそびえ立ち、平均標高は4108mに達します。

場所ごとの特徴

西部

西側では、レッチェンタールに接する峠を介してランク氷河へと繋がっており、グロッサー・アレッチフィルンがアレッチホルンの北へと流れています。この部分は、エブネフルー、グレッチャーホルン、クランツバーという3つの万年雪から氷雪の供給を受けており、特にエブネフルーからコンコルディアプラッツまでは、平均1500mの幅で9kmにわたって広がっています。

北西部

北西部には、ユングフラウの東山腹とメンヒの南山腹から流れ出すユングフラウフィルンがあります。これは主要な万年雪の中では最も短く7kmですが、コンコルディアプラッツに直接流れ込み、氷河渓谷の主軸へと繋がります。クランツベルクとトルックベルクによって区切られ、最高地点で幅2km、末端部で1kmの幅を持っています。

北部

北部では、メンヒの東とフィーシャーホルンの南西の山腹に位置するエーヴィッヒシュネーフェルト（「万年雪の野」）が広がっています。この万年雪は長さ8km、幅1.2kmで、グリュンホルンの西稜沿いに下っています。一方、グリュンホルンの東稜はフィーシャー氷河を生み出し、アレッチ氷河と並行に移動しますが、より短い氷河です。

コンコルディアプラッツ

3つの主要な万年雪は、約25%から30%の傾斜を持ち、エーヴィッヒシュネーフェルトの下流部で合流し、氷床の厚さが900m以上にもなるコンコルディアプラッツへと流れ込みます。幅600m、長さ3kmの小さな万年雪であるグリュネッグフィルンも東からコンコルディアプラッツへと流れ込み、フィーシャー氷河にも繋がっています。コンコルディアプラッツに集まった氷は、幅1.5kmの広大な平原となり、南東方向に年間約180m移動し、長い時間をかけて氷河の渓谷を下っていきます。

中央部

氷河は南東からグロス・ヴァンネンホルンやドライエクホルンの麓へ向かい、メルジェレン湖の高さに達すると、エギスホルンに阻まれて南西へと方向を変えます。メルジェレン湖の西側では、アレッチホルンが別の氷河であるミッテラレッチ氷河を育んでおり、これはアレッチ氷河に合流しますが、氷河の後退により分離が進んでいます。

下流部

氷河の末端部分はモレーンに覆われ、標高1560mの低地まで細長く伸びています。マッサ川は氷河から発し、渓谷を流れ、発電用のガビデムダムに堰き止められ、最終的にローヌ川に合流します。氷河は上流部では厚く、下流部に向かうにつれて薄くなり、最終的には約150mになります。

モレーン

アレッチ氷河の特徴的なモレーンは、氷河の中程に位置し、コンコルディアプラッツから下流部の先端まで続いています。西側のモレーンはクランツベルクモレーン、東側のものはトルクベルクモレーンと呼ばれています。

山塊

アレッチ氷河を取り囲む山塊は、長さ数百km、幅9kmに及び、表面積は539.34km²にも達します。

世界遺産

ユネスコの世界遺産委員会は2001年、アレッチ氷河を「ユングフラウ-アレッチ-ビーチホルン」として世界遺産に登録しました。この登録は、氷河が作り出す景観、動植物相、そしてヨーロッパの文学や芸術に与えた影響などが評価されたものです。その後、2007年には登録範囲が拡大され、2008年に現在の「スイス・アルプスユングフラウ〜アレッチ」という名称に変更されました。

登録基準

世界遺産としての登録は、以下の基準に基づいています。

(7) ひときわ優れた自然美と美的重要性を持つ自然現象や地域であること。
(8) 地球の歴史における主要な段階を示す顕著な見本であること。
* (9) 生態系と生物群集の進化と発達を示す顕著な見本であること。

地球温暖化の影響

地球温暖化による温室効果ガスの増加は、アレッチ氷河の存続に深刻な影響を与えています。現在のペースで温室効果ガスの排出が続けば、アルプスの氷河の80%が失われる可能性があると予測されており、アレッチ氷河もその例外ではありません。

氷河の変動

1860年から2002年にかけての氷河の変動データは、氷河の長さが年々減少していることを示しています。

2018年の高温による融解

2018年4月から7月にかけてのスイスは、過去150年で最も高温かつ乾燥した気候に見舞われ、アレッチ氷河も1日に10cm以上後退するほどの融解が進みました。この高温状態が9月まで続いた場合、1年で氷河の4%が失われる可能性も指摘されています。

まとめ

アレッチ氷河は、その壮大な自然景観と地質学的な重要性から、世界遺産として保護されるべき貴重な存在です。しかし、地球温暖化の影響によりその姿を大きく変えつつあり、今後の対策が求められています。

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