アロイス・ブルンナー

アロイス・ブルンナー：ナチス戦犯の逃亡と最期

アロイス・ブルンナー(1912年4月8日-2001年もしくは2010年?)は、オーストリア出身のナチス親衛隊隊員であり、アドルフ・アイヒマンの副官として第二次世界大戦中に多くのユダヤ人の強制移送に関与したことで知られる人物です。最終階級は親衛隊大尉に上り詰めました。ドイツ敗戦後、シリアに逃亡し、終生、その罪を問われることはありませんでした。

生い立ちと戦争犯罪

ブルンナーは、現在のオーストリア、ブルゲンラント州で生まれました。19歳でオーストリア・ナチ党に入党し、当初は[突撃隊]に所属していましたが、1938年のオーストリア併合後、ウィーンに移り親衛隊(SS)に入隊しました。ウィーンのアドルフ・アイヒマンの「ユダヤ人移送局」に配属されると、アイヒマンの補佐役としてユダヤ人の追放・移送作戦の中核を担いました。この過程で、ブルンナーは暴力や拷問といった残虐行為も厭いませんでした。

1939年から1943年2月までに、彼はオーストリアから約4万7000人のユダヤ人を強制移送させました。この「功績」によって、ブルンナーは急速に昇進し、親衛隊少尉、中尉、そして大尉へと昇進していきました。その後、ギリシャ、フランス、スロバキア、ハンガリーへと転属し、各地で数万人のユダヤ人を強制収容所へと送るという非道な行為を繰り返しました。戦時中、ブルンナーは一貫してユダヤ人移送に関与し、戦闘には参加しませんでした。

戦後の逃亡と隠蔽生活

ドイツ敗戦後、ブルンナーは逮捕され処刑されたという情報が流布していましたが、これは別のゲシュタポ局員との混同による誤報でした。実際には、彼は偽名を使い、米軍基地の運転手などを務めながら一般社会に溶け込んでいました。しかし、まもなく戦犯として手配され、フランスでは欠席裁判で死刑判決を受けました。西ドイツでもナチス戦犯裁判が始まり、逃亡を余儀なくされたブルンナーは、偽造パスポートを使ってエジプト、そしてシリアへと逃亡しました。

シリアでは実業家の支援を受け、事業を展開し裕福な生活を送っていました。しかし、1959年頃からイスラエルの諜報機関モサドによるナチス戦犯追跡が始まり、ブルンナーの居場所も特定されます。モサドは暗殺未遂を実行するも失敗に終わりますが、ブルンナーは重傷を負いました。シリア政府はブルンナーの死を発表するなど、その存在を隠蔽しようとしました。その後もモサドによる暗殺計画は何度か実行されましたが、いずれも失敗に終わりました。

1980年代には、ドイツの雑誌のインタビューに応じるなど、公然と活動することもありました。しかし、シリア政府は、西ドイツからの引き渡し要請を拒否し続け、ブルンナーには行動制限が課せられました。最終的には、シリアの秘密警察の地下独房に監禁され、劣悪な環境の中で2001年に死亡したとされています。一部資料では2010年死亡説も存在します。

晩年と証言

ブルンナーは晩年、ホロコースト否定的な発言を行い、自らの行為について反省の色を見せませんでした。1987年にはオーストリアのホロコースト否定派とのインタビューで、「ガス室など知らない」「ユダヤ人を再定住させようとしていただけだ」と主張しています。

アロイス・ブルンナーの生涯は、ナチス政権下の残虐行為と、その後の逃亡、そして責任逃れという、歴史の暗い一面を象徴するものです。彼の逃亡劇は、ナチス戦犯追及の困難さと、国際的な協力の必要性を改めて示しています。彼の死後も、彼の行った残虐行為の事実と、その責任は決して忘れられるべきではありません。

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