アロンソ・サンチェス・コエリョ

アロンソ・サンチェス・コエーリョ（Alonso Sánchez Coello, 1531年/1532年 - 1588年8月8日）は、16世紀スペインのルネサンス期に活躍した肖像画家であり、スペイン黄金時代美術を代表する一人です。

生涯

コエーリョは、幼少期をバレンシア近郊で過ごした後、ポルトガルで教育を受けました。一族のポルトガル語の姓やポルトガルでの生活から、長らくポルトガル人であると信じられていましたが、実際にはスペイン人です。祖父がポルトガル王ジョアン3世の臣下であった縁で、1550年頃にフランドル人の画家アントニス・モルのもとに留学し、絵画の基礎を学びました。フランドル滞在中、コエーリョはティツィアーノの作品を模写し、その画風を吸収しました。また、アラス司教アントワーヌ・ド・グランヴェルに仕え、モルから表現の正確さを学びました。

1552年、コエーリョは師のモルとともにリスボンへ戻ります。モルは神聖ローマ皇帝カール5世から、ポルトガル王家の肖像画制作を依頼されており、コエーリョは数年間ポルトガルに滞在し、王太子ジョアンの宮廷で働きました。ジョアンが若くして亡くなると、コエーリョはジョアンの未亡人フアナ・デ・アウストリアの推薦で、フェリペ2世の宮廷に移りました。1555年にはバリャドリッドの宮廷で働き、1561年にモルがスペインを離れた後、コエーリョが宮廷画家として後を継ぎました。

1560年または1561年、コエーリョはバリャドリッドでルイサ・レヤルテスと結婚し、7人の子供をもうけました。娘のイサベル・サンチェスは画家となり、父の工房で学び、父の仕事を助けました。コエーリョはトレドの宮廷を経て、最終的に1561年にマドリードに定住しました。彼は宮殿内の多くの宗教画を手がけ、特にエル・エスコリアル修道院の装飾に貢献しました。フェリペ2世はコエーリョを厚遇し、二人の娘の代父に指名するなど、個人的にも親しくしていました。コエーリョは王のお気に入りとして、名誉と富を得て、生涯を宮廷で過ごしました。彼の弟子には、フアン・パントーハ・デ・ラ・クルスやフェリーペ・デ・リアーニョがいます。ロペ・デ・ベガもコエーリョの作品を高く評価しました。1588年8月8日、コエーリョはマドリードで亡くなりました。

画風

コエーリョはティツィアーノの影響を強く受け、その肖像画は人物を鎧、織物、装身具に至るまで細密に描くことで知られています。モルからは、表現の正確さを学びました。また、ティツィアーノからは、ヴェネツィア風の金色の色調、寛容な精神、光の使い方を取り入れています。

コエーリョは宗教画と肖像画の両方を手がけましたが、特に肖像画で名声を確立しました。彼の肖像画は、自然なポーズと卓越した描写力が特徴で、威厳と厳粛さを兼ね備え、温かみのある色彩が印象的です。モルとティツィアーノからの影響を受けつつも、独自のスタイルを確立しました。代表作として、1580年頃に描かれたフェリペ2世の肖像画や、1571年に描かれたイサベル・クララ・エウヘニア王女の肖像画が挙げられます。これらの作品は現在、プラド美術館に所蔵されており、コエーリョの洗練された画風を物語っています。彼の宗教画は、主にサン・ヘロニモ教会で見ることができます。

コエーリョの肖像画家としての評判は、数多くの模写や贋作によって損なわれた時期もありましたが、彼の作品は、宮廷肖像画に独自の質をもたらしたことで高く評価されています。色彩感覚の鋭さ、卓越した技術、写実的な描写は、彼の作品を際立たせています。

コエーリョに関する伝記はほとんど書かれておらず、彼の作品の多くは、同時代の宮廷画家であるソフォニスバ・アングイッソラや、同僚のフアン・パントーハ・デ・ラ・クルスのものと混同されてきました。1990年、プラド美術館では「コエーリョとフェリペ2世宮廷の肖像画」という展覧会が開催され、彼の作品が改めて注目を集めました。

参考文献

Jonathan Brown, Painting in Spain, 1500 - 1700, 1999
Ilya Sandra Perlingieri, Sofonisba Anguissola, 1992

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