アングルド・デッキ

アングルド・デッキ：航空母艦の安全性と効率性を飛躍的に向上させた革新的設計

航空母艦における飛行甲板の設計は、艦載機の運用効率と安全性を左右する重要な要素です。従来の飛行甲板では、艦載機は艦首線上に沿って着艦していました。この方式では、着艦時の事故発生時に、既に発艦準備完了済みの機体や艦橋に衝突する危険性があり、特にジェット機の運用開始以降、そのリスクは飛躍的に増大しました。

こうした課題を解決するために考案されたのが、アングルド・デッキ（Angled flight deck）です。アングルド・デッキは、飛行甲板に着艦帯を艦の進行方向に対して斜めに配置する設計です。これにより、着艦に失敗した機体は、艦橋や発艦待機中の機体と衝突することなく、飛行甲板の外側に逸れることが可能となります。

アングルド・デッキの採用によって、着艦と発艦の作業が物理的に分離され、両作業の干渉がなくなりました。これにより、安全性の向上はもとより、運用効率も飛躍的に向上しました。着艦失敗時のリスク低減に加え、着艦のやり直しも容易になったことで、離着陸のサイクルが加速、運用能力の向上に繋がりました。また、エレベーターや駐機スペースなどの設備も、着艦動線から離れた場所に設置できるため、飛行甲板上の作業スペースも確保しやすくなりました。カタパルトを増設すれば、同時発艦機数の増加も可能となり、空母全体の運用能力の更なる向上に貢献します。

アングルド・デッキの採用は、イギリス海軍が1948年から始めた研究の成果です。1952年には、イギリス海軍の空母「トライアンフ」で試験的にアングルド・デッキを模した塗装を施して実験が行われました。その後、アメリカ海軍のエセックス級空母「アンティータム」への本格的な搭載・運用開始を経て、世界各国へと普及していきました。CATOBAR方式やSTOBAR方式を採用した空母では、ほぼ例外なくアングルド・デッキが採用されています。多くの既存空母も改装によってアングルド・デッキ化されました。

一方、垂直離着陸機（VTOL/STOVL）を運用する軽空母では、アングルド・デッキは必ずしも必要ではありません。そのため、多くのSTOVL方式の空母ではアングルド・デッキは採用されていません。ソ連海軍のキエフ級空母はVTOL/STOVL方式を採用していましたが、飛行甲板を斜めに配置していました。しかし、これは艦橋前部にミサイルや艦砲などの兵装を搭載していたためであり、着艦と発艦の分離を目的としたアングルド・デッキとは異なる意図によるものです。

アングルド・デッキの導入は、航空母艦の運用方法に革命を起こしました。その安全性と効率性の向上は、現代の航空母艦の運用に欠かせない要素となっています。今後も、航空母艦の設計や運用における重要な要素として、その役割を果たし続けることでしょう。

参考文献

Polmar, Norman (2008). Aircraft Carriers: A History of Carrier Aviation and Its Influence on World Events. Volume II. Potomac Books Inc..
野神明人、坂本雅之『図解 空母』新紀元社〈F‐Files〉、2014年。
* 福井静夫『世界空母物語』光人社〈福井静夫著作集〉、2008年。

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