アンシャル体

アンシャル体（アンシャルたい、英: uncial script）は、西暦4世紀から8世紀にかけてラテン語やギリシャ語の写本で広く使われた大文字の書体です。この字体は、ギリシャ語やラテン語、さらにはゴート語の表記にも使われました。アンシャル体には「アンシャル書体」や「アンシャル字体」といった呼称もあり、時には「アンシアル」とも表記されます。

発展

アンシャル体の初期の形はローマ筆記体から進化したものと考えられています。従来の筆記体は、パピルスのような粗い素材に適した角張った文字で構成されていましたが、アンシャル体は新たに普及した羊皮紙や犢皮紙の滑らかな表面に、大きな一筆書きの筆画で描かれることが特徴です。大英博物館に所蔵されている『De bellis macedonicis』など最初期のアンシャル体の使用例では、文字は個々に書かれ、単語の間は通常区切られていません。後の時代には、単語の区切りが見られるようになりました。

書体は時代を経るごとに進化し、特に600年頃には基本の筆画に装飾が加わることが多く見られました。アセンダーやディセンダーの出現がこの変化を代表し、また、筆画が曲がったり重ねられるような新しいスタイルが登場します。800年頃には、より細かい小文字書体が登場し、一部のアンシャル体のデザインはその後の小文字の基本となりました。アンシャル体は主に聖書の写本で使用されていましたが、10世紀頃から次第に使用頻度は減少していきました。現在知られているアンシャル体の写本は500以上存在し、これはカロリング朝ルネサンス以前では非常に多い数です。

字体の特徴

アンシャル体にはいくつかの共通する特徴があり、以下のポイントが挙げられます。

- m、n、u の幅は比較的広く、m の筆画は湾曲していて初期型では第1画が直線であることが多いです。
- f、i、p、s、t の幅は狭めに設計されています。
- e の輪郭は曲線で形成されており、その腕は曲線の上部に接続されていないことが特徴です。
- l のベースライン部は小さく、右に伸びて次の文字と繋がることはありません。
- r の右上部分が長く、湾曲しており、しばしば次の文字に繋がります。
- s は「長いs」と似ていますが、アンシャル体では f よりも r に似た印象を与えます。

また、時代が進むにつれて、アンシャル体の文字は時折雑に書かれることもあり、2つの l がつながって書かれたり、b、p、r などの湾曲部分が正しく曲がらなかったりと、文字の明瞭さが失われることが見受けられました。

地域ごとの多様性

アンシャル体は広範な地域で使用されたため、地域ごとに特徴的な変種が存在します。特にビザンチン、アフリカ、イタリア、フランス、スペイン、イングランドおよびアイルランドのアンシャル体にはそれぞれ違いがあります。アフリカのアンシャルは他の地域に比べて角張った形をしており、特に「a」の湾曲部分が尖っています。ビザンチンのアンシャルには2つの特異なスタイルがあり、初期のものは4世紀から5世紀にかけて用いられました。

イタリアのアンシャルは、丸い形の文字の上部が平らになっていたり、d の縦棒がほとんど横になっている特徴があります。インシュラー体は文字を明確に区切り、アクセント記号が付与されるのが特徴です。フランスのアンシャルは多様な装飾が施され、特にgやpなどに細いディセンダを見られます。

名称の由来

「アンシャル」という名称の正確な由来には諸説ありますが、ヒエロニムスの著作中に見られる「uncialibus」という単語に由来しているとの見解が一般的です。一方で、18世紀初めにこの用語を初めて使用したのはジャン・マビヨンであり、古代ローマ碑文の大文字と区別するために用いました。

結論

アンシャル体は、その書体の特徴と歴史を通じて、古代文書や写本の世界において重要な役割を果たしてきました。現代のカリグラフィーやタイポグラフィにおいても、その影響が色濃く残っています。

もう一度検索