アンチラグシステム

アンチラグシステム：ターボラグ解消の技術

概要

アンチラグシステム (Anti-lag System, ALS) は、ターボチャージャーを搭載したエンジンにおいて、アクセルオフ後に発生するターボラグを解消するためのシステムです。ターボチャージャーは排気のエネルギーを利用して空気を圧送するため、アクセルオフ時には排気エネルギーが減少し、タービン回転数が低下します。このため、アクセルを再び踏み込んだ際に、タービンが十分な回転数に達するまでタイムラグ（ターボラグ）が発生し、エンジンのレスポンスが悪くなります。アンチラグシステムはこのターボラグを軽減し、アクセル操作に対するエンジンの反応を速めることを目的としています。

動作原理

アンチラグシステムは、アクセルオフ時にエンジン内の未燃焼ガスをエキゾーストマニホールド内で燃焼させることで、タービンへの排気エネルギーを維持します。これにより、タービン回転数の低下を防ぎ、アクセルオン時のターボラグを低減します。この燃焼過程において、「ポンポン」「ポコポコ」といった軽微な音が発生することがありますが、制御が不適切な場合は「バンバン」「パパパパ」といった爆発音のような大きな音が発生する可能性もあります。

システムの種類

アンチラグシステムには、大きく分けて以下の2種類があります。

1. スロットル制御方式

アクセルオフ時にもスロットルバルブを開けたままにすることで、エンジンシリンダーから空気をエキゾーストマニホールドに導入します。この方式では、電子制御スロットルを使用することで、より精密な制御が可能になります。

2. バイパス方式

吸気系からエキゾーストマニホールドへ直接空気を導入するバイパス路を設けます。スロットル制御方式に比べて制御の自由度が高く、複数の利点を持つ一方、競技によっては使用が禁止されている場合があります。

歴史

アンチラグシステムは、1980年代のF1やWRCグループBで初めて使用されました。WRCでは、グループAでのリストリクター径の縮小に伴い、ターボラグの解消が重要な課題となり、アンチラグシステムの使用が普及しました。1990年代にはメディアで「ミスファイアリングシステム」と呼ばれ、メーカーによっては独自の名称（例：トヨタの「フレッシュエアシステム」、三菱の「二次エア供給システム(PCC)」）も用いられていました。また、ALSの制御技術はローンチコントロールにも応用されています。2010年代以降は、WTCC、SUPER GT、スーパーフォーミュラ、D1グランプリなど、ターボエンジンを使用する様々なモータースポーツで使用されています。

市販車への搭載例

[世界ラリー選手権] グループAの技術規則では、バイパス路の追加設置が認められていなかったため、一部の市販車にもアンチラグシステムが搭載されました。しかし、多くの場合、車検を通過する範囲でのみ作動するように設定されており、通常走行では機能しないようになっています。

代表的な搭載例としては、三菱ランサーエボリューション(III～IX)、トヨタセリカGT-FOUR(ST205型WRC仕様)、スバルインプレッサWRX STiなどが挙げられます。

まとめ

アンチラグシステムは、ターボラグを解消し、エンジンのレスポンスを向上させる効果的な技術です。モータースポーツにおいては広く普及しており、一部の市販車にも搭載されています。その歴史と技術的な詳細を理解することで、自動車技術への理解が深まるでしょう。今後、さらに高度な制御技術の開発や、環境規制への対応などが課題となりそうです。

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