アンテミウス

プロコピウス・アンテミウス：混迷の時代を生きた西ローマ皇帝

プロコピウス・アンテミウス（420年頃 – 472年7月11日）は、5世紀の西ローマ帝国において、皇帝として短いながらも激動の時代を生きた人物です。東ローマ皇帝レオ1世に指名され即位しましたが、その治世は軍事的苦難と内部の権力闘争に彩られました。

生い立ちと初期のキャリア

アンテミウスは、東ローマ帝国の名門プロコピア家に生まれました。彼の家系は、文武両道で高位を歴任してきたことで知られています。母方の祖父フラウィウス・アンテミウスは東方民政総督を務め、父プロコピウスも東方軍区長官を務めました。彼はコンスタンティノープルで生まれ、アレクサンドリアで新プラトン主義の哲学を学びました。

453年には、東ローマ皇帝マルキアヌスの皇女マルキア・エウフェミアと結婚。この結婚を機に軍の要職を歴任し、アッティラの死後にはダーヌビアン辺境地域の防衛再建に尽力しました。その後、パトリキウス（貴族）の称号を与えられ、東方軍区長官の一人に任命されるなど、着実にキャリアを重ねていきました。

マルキアヌス帝の皇女との結婚、軍の要職への昇進、パトリキウスの称号、そして執政官職といった一連の栄誉は、マルキアヌス帝がアンテミウスを東西いずれかの次期ローマ皇帝候補として考えていたことを示唆しています。

西ローマ皇帝への即位

465年に西ローマ皇帝リウィウス・セウェルスが死去すると、西ローマ帝国の帝位は空位となりました。レオ1世は、ヴァンダル王ガイセリックの勢力拡大を警戒し、アンテミウスを後継者として送り込みました。467年4月12日、アンテミウスはローマからほど近い場所で皇帝に宣言され、西ローマ皇帝として即位しました。

治世と苦難

アンテミウス帝の治世は、東ローマ帝国との良好な関係に支えられていました。東西両宮廷は、執政官の選出で協調し、互いの指名を受け入れました。婚姻政策も積極的に行われ、アンテミウス帝の皇子とレオ1世の皇女が結婚するなど、両帝国の関係は強化されました。

しかし、アンテミウス帝が直面したのは、帝国の深刻な軍事的危機でした。北アフリカを支配するヴァンダル族は、西ローマ帝国にとって最大の脅威であり、アンテミウス帝はマルケリヌス将軍を派遣してヴァンダル族との戦争に臨みました。東西ローマ帝国共同で大規模な攻撃を計画しましたが、総司令官バシリスクスの失態により大敗を喫し、マルケリヌスも暗殺されるという結果に終わりました。

ヴァンダル族との戦いに敗れたアンテミウス帝は、次に西ゴート族との戦いに挑みました。西ゴート族は、エウリック王の下で勢力を拡大し、ガリア地方を侵略していました。アンテミウス帝は、ブルトン族を雇い入れて西ゴート族に対抗しようとしましたが、これも失敗に終わりました。さらに、皇子アンテミオルゥスを派遣して西ゴート族を攻撃しましたが、これも敗北に終わり、多くの将軍が戦死しました。

内政と権力闘争

軍事的な苦境に加え、アンテミウス帝は国内の反対勢力にも苦しめられました。彼は東ローマ帝国出身であり、異教徒ではないかという疑念も持たれていました。元老院階級からの支持を得るために、パトリキウスの称号を乱発しましたが、これは称号の価値を低下させるという副作用をもたらしました。

アンテミウス帝の治世において最も大きな問題は、軍務長官リキメルとの権力闘争でした。リキメルは、西ローマ帝国の実力者であり、アンテミウス帝を傀儡として操ろうとしていました。アンテミウス帝は、娘アリピアをリキメルに嫁がせることで関係を強化しようとしましたが、両者の対立は深まるばかりでした。470年、リキメルの支持者である元老院議員ロマヌスが反逆罪で処刑されると、リキメルは軍を率いてミラノに立てこもり、アンテミウス帝との内戦が勃発しました。

内戦と最期

472年初頭、内戦は再開され、アンテミウス帝はローマ市内に包囲されました。レオ1世はオリブリオスを調停のために派遣しましたが、リキメルはオリブリオスを皇帝に擁立し、内戦はさらに激化しました。リキメル軍はローマ市内を攻撃し、市民は苦難を強いられました。アンテミウス帝は、援軍を求めましたが、それも失敗に終わりました。472年7月11日、アンテミウス帝は捕えられ、リキメルによって斬首されました。

アンテミウス帝の死後、リキメルも間もなく急死し、オリブリオス帝も短い治世を終えました。西ローマ帝国は、その後も短命の皇帝が次々と廃立され、476年に最後の皇帝ロムルス・アウグストゥルスが廃位されることで、滅亡へと向かいました。

プロコピウス・アンテミウスは、混迷の時代に翻弄された悲劇の皇帝でした。彼の治世は、西ローマ帝国の衰退を象徴する出来事として、歴史に刻まれています。

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