マルキアヌス

マルキアヌスは、392年頃にトラキアかイリュリアで生まれたとされる東ローマ帝国の皇帝です。彼の出自は不明な点が多く、初期の経歴も詳しくわかっていません。しかし、軍人として頭角を現し、最終的には有力な将軍アスパルの側近として仕えることになります。

マルキアヌスの台頭

マルキアヌスが歴史の表舞台に登場するのは、テオドシウス2世の死後です。後継者不在となった東ローマ帝国において、アスパルはマルキアヌスを皇帝に擁立しようと画策しました。そのために、テオドシウス2世の姉であるアエリア・プルケリアとの結婚を成立させ、帝位継承の正当性を確保しました。450年8月25日、マルキアヌスは皇帝に即位しました。

フン族との対決

マルキアヌスは即位後、テオドシウス2世の政策を大きく転換しました。特にフン族に対する姿勢を硬化させ、アッティラとの条約を破棄し、多額の貢納金を打ち切りました。これは、東ローマ帝国がフン族の脅威に対し、より積極的な姿勢で臨むことを意味しました。

452年、アッティラが西ローマ帝国を攻撃している隙に、マルキアヌスはドナウ川を越えてフン族の本拠地に遠征し、彼らを打ち破ることに成功しました。この勝利は、東ローマ帝国の軍事力を誇示し、アッティラの脅威を一時的に退けることとなりました。

カルケドン公会議と宗教政策

マルキアヌスの治世において、宗教問題も重要な焦点となりました。彼はカルケドン公会議を招集し、イエス・キリストの神性と人性が一つの位格の中に共存するという、カルケドン信条を採択しました。この決定は、その後のキリスト教の教義に大きな影響を与えましたが、同時に合性論を奉じる東方教会との分裂も引き起こしました。

内政と経済政策

マルキアヌスは、国家運営の効率化にも力を注ぎました。彼の治世下で、東ローマ帝国の国庫は大きく改善し、700万ソリドゥスの金貨を蓄えるまでに至りました。これは、先代のテオドシウス2世がフン族に支払っていた莫大な貢納金を削減し、財政支出を抑制した結果によるものでした。また、法制度の改革も行い、官僚の腐敗を抑制しました。

生涯と死

マルキアヌスは457年1月27日に死去しました。彼の死後、アスパルの影響下で軍司令官レオ1世が後継者として選ばれました。

マルキアヌスの初期の経歴

マルキアヌスはトラキアかイリュリアで生まれ、若い頃に軍に入隊しました。421年から422年のサーサーン朝との戦争ではトリブヌスの地位にあったとみられますが、病気のために従軍は叶いませんでした。その後、彼はアスパルの補佐役として力をつけ、政治の中枢へと関わるようになっていきます。一時、ヴァンダル族に捕虜として捉えられたものの、後に解放されました。

テオドシウス2世の治世と背景

テオドシウス2世の時代、東ローマ帝国は外敵の脅威にさらされていました。ヴァンダル族のアフリカ侵攻やフン族の侵入、さらにフン族への多額の貢納金支払いは、帝国の財政を圧迫していました。テオドシウス2世の死後、後継者問題が浮上し、マルキアヌスが帝位を継ぐことになったのです。

マルキアヌスの即位までの経緯

テオドシウス2世の死後、有力者たちは後継者選びに奔走しました。アスパルは、マルキアヌスを擁立するため、プルケリアとの結婚を画策しました。プルケリアは当初、教会会議の開催を条件に結婚に同意しましたが、両者の結婚はマルキアヌスの帝位を正当化する上で重要な要素となりました。マルキアヌスは、即位後、テオドシウス2世の影響下にあった官僚を排除し、独自の政策を展開しました。

治世：フン族との対立

マルキアヌスは、フン族との条約を破棄し、貢納金の支払いを停止しました。アッティラはこれに怒りを示しましたが、マルキアヌスはフン族の要求に屈しませんでした。451年のカタラウヌムの戦いでは、アエティウス率いる西ローマ軍とフン族の間で激戦が繰り広げられ、452年にはアッティラがイタリアを攻撃しましたが、東ローマ帝国はフン族の本拠地を攻撃し、アッティラの勢力を削ぎました。アッティラの死後、フン族の連合は分裂し、マルキアヌスは東ゴート族をフォエデラティとして受け入れるなど、巧みな外交を展開しました。

宗教政策

マルキアヌスは、カルケドン公会議を招集し、キリスト教の教義を定める上で大きな役割を果たしました。カルケドン信条は、キリストの神性と人性が区別されずに一つの位格に結びついているというもので、この教義は後のキリスト教の教義に大きな影響を与えました。しかし、この決定は、合性論を支持する東方教会との対立を引き起こし、分裂を招くことになりました。

経済政策と法政策

マルキアヌスは、財政再建のため、支出削減や税制改革を行いました。また、法典を編纂し、官僚の腐敗を防止する策を講じました。彼の政策は、東ローマ帝国の財政を立て直す上で大きな効果を発揮し、国庫には多額の金が残されることになりました。

廷臣の影響力と権力抗争

マルキアヌスの治世初期は、フラウィウス・ゼノン、プルケリア、そしてアスパルの影響下にありました。しかし、ゼノンとプルケリアが死去すると、アスパルの影響力が強まりました。マルキアヌスは、戦車競走チームの支持を通じて、大衆の支持を得ようとしました。

東方における外交政策

マルキアヌスは、アルメニアからの支援要請を拒否し、サーサーン朝との戦争を回避しました。また、ラジカ王国との関係を巡り、軍事介入を行い、帝国の支配を回復させました。

西ローマ帝国との関係

マルキアヌスは、西ローマ帝国との協調関係を築こうとしましたが、必ずしもうまくいきませんでした。西ローマ皇帝ウァレンティニアヌス3世の暗殺後、ヴァンダル族がローマを略奪し、マルキアヌスは捕虜となった皇太后リキニア・エウドクシアの解放を求める外交を行いました。しかし、ヴァンダル族への軍事攻撃も辞さない構えを見せ、最終的には捕虜解放を実現しました。

死と後継者

マルキアヌスは、痛風による足の炎症が悪化し、457年1月27日に死去しました。後継者にはアスパルによってレオ1世が選ばれました。

評価と遺産

マルキアヌスは、東ローマ帝国を安定させ、後の皇帝たちのモデルとなるような統治を行ったとして高く評価されています。彼の治世は、帝国の黄金時代と見なされることもあります。また、コンスタンティノープルには、彼を記念する柱が建てられ、その功績は後世に伝えられています。しかし、その成功は彼の優れた手腕だけでなく、時代や環境にも恵まれていたことも事実です。

大衆文化

マルキアヌスは、1954年の映画『異教徒の旗印』に登場します。

まとめ

マルキアヌスは、激動の時代に東ローマ帝国を率いた皇帝として、その政治手腕と功績は高く評価されています。フン族との対決、カルケドン公会議の開催、そして財政再建は、彼の治世における主要な成果です。彼の生涯は、当時の東ローマ帝国の状況と歴史を理解する上で重要な要素であり、現代においてもなおその影響を見ることができます。

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