アントニオ・ブラジレイロ
アントニオ・カルロス・ジョビンが1994年、67歳でその生涯を閉じる直前に発表したスタジオ・アルバムが『アントニオ・ブラジレイロ』（Antonio Brasileiro）です。結果として彼のキャリアにおける最後の新作アルバムとなり、巨匠の円熟した音楽性を伝える貴重な記録となりました。
このアルバムには、晩年のジョビンの多岐にわたる音楽活動や交流が反映されています。
収録曲の一つ「マンゲイラのピアノ」は、旧知の仲であるシコ・ブアルキとの共作。元々1991年のオムニバス・アルバム『No Tom da Mangueira』に収録されたデュエット曲を、改めてこのアルバムのために再録音したものです。また、この楽曲の別バージョンは、シコ・ブアルキのアルバム『パラトードス』にも収録されており、そこではジョビンがピアノ演奏とアレンジを担当しています。
ブラジル音楽のもう一人の偉大な巨匠、ドリヴァル・カイミの楽曲も2曲取り上げられています。「マラカンガーリャ」と「マリコチーニャ」のカバーが収録されており、特に「マリコチーニャ」では、サプライズゲストとしてカイミ自身がボーカルで参加するという、世代を超えた貴重なコラボレーションが実現しました。
さらに、国境を超えたコラボレーションとして、「ハウ・インセンシティヴ（Insensatez）」では、イギリスのロックミュージシャン、スティングとのデュエットが収録されています。このバージョンは、エイズ撲滅のためのチャリティプロジェクトとして企画されたコンピレーション・アルバム『Red Hot + Rio』（1996年発表）にも収められ、その収益が関連団体に寄付されることとなりました。
アルバムには、ジョビンの家族も多数参加しており、娘のマリア・ルイーザやエリザベッチ、アナ、息子のパウロ、ダニエルらがボーカルや演奏、バッキングボーカルで貢献しています。また、ジャキス・モレレンバウンやダニーロ・カイミ、セバスチャン・ネトなど、ブラジル音楽界の精鋭たちがジョビンを支えています。
『アントニオ・ブラジレイロ』は、音楽史におけるジョビンの最後の輝きを刻む作品として高い評価を受けました。特に、第38回グラミー賞では「最優秀ラテン・ジャズ・パフォーマンス賞」を受賞。これは、アントニオ・カルロス・ジョビンにとってキャリアを通じて初のグラミー受賞という、記念碑的な出来事となりました。
音楽評論家たちもこの作品を称賛しています。オールミュージックのリチャード・S・ギネルは、このアルバムに5点満点中4点を付け、「ジョビンは亡くなる瞬間までクリエイティブな活動を続けており、実際、この最後のアルバムには、創造性の炎が燃え尽きた兆候は微塵も見られない」と評しています。この言葉は、ジョビンがいかに晩年まで意欲的に音楽と向き合っていたかを物語っています。
特記なき楽曲はアントニオ・カルロス・ジョビン作曲。
1. ソ・ダンソ・サンバ - "Só Danço Samba" (Antônio Carlos Jobim, Vinicius de Moraes) - 2:00
2. マンゲイラのピアノ - "Piano Na Mangueira" (A. C. Jobim, Chico Buarque) - 2:42
3. ハウ・インセンシティヴ（インセンサテス） - "How Insensitive (Insensatez)" (A. C. Jobim, V. Moraes, Norman Gimbel) - 3:46
4. ケリーダ - "Querida" - 3:31
5. サーフボード - "Surfboard" - 3:08
6. マリア・ルイーザのサンバ - "Samba de Maria Luiza" - 1:14
7. フォーエヴァー・グリーン - "Forever Green" (A. C. Jobim, Paulo Jobim) - 3:14
8. マラカンガーリャ - "Maracangalha" (Dorival Caymmi) - 2:41
9. マリコチーニャ - "Maricotinha" (D. Caymmi) - 3:49
10. パト・プレト - "Pato Preto" - 4:21
11. メウ・アミーゴ・ラダメス - "Meu Amigo Radamés" - 3:55
12. ブルー・トレイン - "Blue Train (Trem Azul)" (A. C. Jobim, Lô Borges, Ronaldo Bastos) - 5:00
13. ラダメス・イ・ペレ - "Radamés Y Pelé" - 2:48
14. ショーラ・コラソン - "Chora Coração" (A. C. Jobim, V. Moraes) - 3:08
15. トレン・ヂ・フェーホ - "Trem de Ferro" (A. C. Jobim, Manuel Bandeira) - 4:35
アントニオ・カルロス・ジョビン - ボーカル、ピアノ
スティング - ボーカル(on #3)
マリア・ルイーザ・ジョビン - ボーカル(on #6, #7)
ドリヴァル・カイミ - ボーカル(on #9)
パウロ・ジョビン - ギター、ヴィオラ・カイピーラ(on #10)、バッキング・ボーカル
ダニエル・ジョビン - キーボード(on #9, #12)
セバスチャン・ネト - ベース
ロン・カーター - ベース(on #3)
パウロ・ブラガ - ドラムス、タンバリン、パーカッション
ドゥドゥカ・ダ・フォンセカ - タンバリン、パーカッション
ジャキス・モレレンバウン - チェロ、バッキング・ボーカル
ダニーロ・カイミ - フルート、バッキング・ボーカル
パウロ・ギマランイス - [フルート]
エドゥアルド・モレレンバウン - [クラリネット]
マルシオ・モンタローヨス - トランペット、フリューゲルホルン
ラウル・ジ・スーザ - トロンボーン
ヴィトール・サントス - [トロンボーン]
Edeneck Svab - ホルン
アントニオ・ホセ・アウグスト - [ホルン]
Orquestra de Cordas - ストリングス
パウラ・モレレンバウン - バッキング・ボーカル
エリザベッチ・ジョビン - バッキング・ボーカル
アナ・ジョビン - バッキング・ボーカル
シモーネ・カイミ - バッキング・ボーカル
* マウーシャ・アドネット - バッキング・ボーカル
この『アントニオ・ブラジレイロ』は、ボサノヴァの創始者として世界にその名を轟かせたアントニオ・カルロス・ジョビンの、最後まで尽きることのない創造性と、ブラジル音楽への深い愛情が結晶となった作品と言えるでしょう。その死後発表されたものの、生前の意欲的な活動と、音楽への情熱がそのままパッケージされた、まさに彼の「ブラジル人」としての魂が宿る名盤です。
制作背景とゲスト
このアルバムには、晩年のジョビンの多岐にわたる音楽活動や交流が反映されています。
収録曲の一つ「マンゲイラのピアノ」は、旧知の仲であるシコ・ブアルキとの共作。元々1991年のオムニバス・アルバム『No Tom da Mangueira』に収録されたデュエット曲を、改めてこのアルバムのために再録音したものです。また、この楽曲の別バージョンは、シコ・ブアルキのアルバム『パラトードス』にも収録されており、そこではジョビンがピアノ演奏とアレンジを担当しています。
ブラジル音楽のもう一人の偉大な巨匠、ドリヴァル・カイミの楽曲も2曲取り上げられています。「マラカンガーリャ」と「マリコチーニャ」のカバーが収録されており、特に「マリコチーニャ」では、サプライズゲストとしてカイミ自身がボーカルで参加するという、世代を超えた貴重なコラボレーションが実現しました。
さらに、国境を超えたコラボレーションとして、「ハウ・インセンシティヴ（Insensatez）」では、イギリスのロックミュージシャン、スティングとのデュエットが収録されています。このバージョンは、エイズ撲滅のためのチャリティプロジェクトとして企画されたコンピレーション・アルバム『Red Hot + Rio』（1996年発表）にも収められ、その収益が関連団体に寄付されることとなりました。
アルバムには、ジョビンの家族も多数参加しており、娘のマリア・ルイーザやエリザベッチ、アナ、息子のパウロ、ダニエルらがボーカルや演奏、バッキングボーカルで貢献しています。また、ジャキス・モレレンバウンやダニーロ・カイミ、セバスチャン・ネトなど、ブラジル音楽界の精鋭たちがジョビンを支えています。
評価と功績
『アントニオ・ブラジレイロ』は、音楽史におけるジョビンの最後の輝きを刻む作品として高い評価を受けました。特に、第38回グラミー賞では「最優秀ラテン・ジャズ・パフォーマンス賞」を受賞。これは、アントニオ・カルロス・ジョビンにとってキャリアを通じて初のグラミー受賞という、記念碑的な出来事となりました。
音楽評論家たちもこの作品を称賛しています。オールミュージックのリチャード・S・ギネルは、このアルバムに5点満点中4点を付け、「ジョビンは亡くなる瞬間までクリエイティブな活動を続けており、実際、この最後のアルバムには、創造性の炎が燃え尽きた兆候は微塵も見られない」と評しています。この言葉は、ジョビンがいかに晩年まで意欲的に音楽と向き合っていたかを物語っています。
収録曲
特記なき楽曲はアントニオ・カルロス・ジョビン作曲。
1. ソ・ダンソ・サンバ - "Só Danço Samba" (Antônio Carlos Jobim, Vinicius de Moraes) - 2:00
2. マンゲイラのピアノ - "Piano Na Mangueira" (A. C. Jobim, Chico Buarque) - 2:42
3. ハウ・インセンシティヴ（インセンサテス） - "How Insensitive (Insensatez)" (A. C. Jobim, V. Moraes, Norman Gimbel) - 3:46
4. ケリーダ - "Querida" - 3:31
5. サーフボード - "Surfboard" - 3:08
6. マリア・ルイーザのサンバ - "Samba de Maria Luiza" - 1:14
7. フォーエヴァー・グリーン - "Forever Green" (A. C. Jobim, Paulo Jobim) - 3:14
8. マラカンガーリャ - "Maracangalha" (Dorival Caymmi) - 2:41
9. マリコチーニャ - "Maricotinha" (D. Caymmi) - 3:49
10. パト・プレト - "Pato Preto" - 4:21
11. メウ・アミーゴ・ラダメス - "Meu Amigo Radamés" - 3:55
12. ブルー・トレイン - "Blue Train (Trem Azul)" (A. C. Jobim, Lô Borges, Ronaldo Bastos) - 5:00
13. ラダメス・イ・ペレ - "Radamés Y Pelé" - 2:48
14. ショーラ・コラソン - "Chora Coração" (A. C. Jobim, V. Moraes) - 3:08
15. トレン・ヂ・フェーホ - "Trem de Ferro" (A. C. Jobim, Manuel Bandeira) - 4:35
主な参加ミュージシャン
アントニオ・カルロス・ジョビン - ボーカル、ピアノ
スティング - ボーカル(on #3)
マリア・ルイーザ・ジョビン - ボーカル(on #6, #7)
ドリヴァル・カイミ - ボーカル(on #9)
パウロ・ジョビン - ギター、ヴィオラ・カイピーラ(on #10)、バッキング・ボーカル
ダニエル・ジョビン - キーボード(on #9, #12)
セバスチャン・ネト - ベース
ロン・カーター - ベース(on #3)
パウロ・ブラガ - ドラムス、タンバリン、パーカッション
ドゥドゥカ・ダ・フォンセカ - タンバリン、パーカッション
ジャキス・モレレンバウン - チェロ、バッキング・ボーカル
ダニーロ・カイミ - フルート、バッキング・ボーカル
パウロ・ギマランイス - [フルート]
エドゥアルド・モレレンバウン - [クラリネット]
マルシオ・モンタローヨス - トランペット、フリューゲルホルン
ラウル・ジ・スーザ - トロンボーン
ヴィトール・サントス - [トロンボーン]
Edeneck Svab - ホルン
アントニオ・ホセ・アウグスト - [ホルン]
Orquestra de Cordas - ストリングス
パウラ・モレレンバウン - バッキング・ボーカル
エリザベッチ・ジョビン - バッキング・ボーカル
アナ・ジョビン - バッキング・ボーカル
シモーネ・カイミ - バッキング・ボーカル
* マウーシャ・アドネット - バッキング・ボーカル
この『アントニオ・ブラジレイロ』は、ボサノヴァの創始者として世界にその名を轟かせたアントニオ・カルロス・ジョビンの、最後まで尽きることのない創造性と、ブラジル音楽への深い愛情が結晶となった作品と言えるでしょう。その死後発表されたものの、生前の意欲的な活動と、音楽への情熱がそのままパッケージされた、まさに彼の「ブラジル人」としての魂が宿る名盤です。
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