アントロデムス

アントロデムス：謎に包まれた獣脚類の分類史

コロラド州モリソン累層から発見されたアントロデムス(Antrodemus)は、ジュラ紀後期の獣脚類とされています。しかし、その分類は古生物学の歴史において複雑な経緯を辿り、現在では疑問名とされています。本稿では、アントロデムスの発見から分類、そして疑問名とされるに至るまでの過程を詳細に解説します。

発見と初期の分類

アントロデムスの物語は、1869年に始まります。フェルディナンド・ヴァンデヴィア・ヘイデンがコロラド州グランビー近郊で発見した化石は、当初「石化したウマの蹄」と誤認されていました。この化石はその後、ジョセフ・ライディの手に渡り、半分に割れた尾椎であると識別されました。ライディは、この化石をヨーロッパ産の恐竜の属であるポエキロプレウロン(Poekilopleuron)の新たな種として、Poicilopleuron valensと命名しました。

しかし、ライディは後にこの化石を新たな属であるアントロデムスに分類し直しました。この変更により、Antrodemus valensという学名が誕生したのです。この段階では、アントロデムスは独立した獣脚類の属として認識されていたと言えるでしょう。

アロサウルスとの関連性と疑問名への転換

1920年、チャールズ・W・ギルモアは、ライディがアントロデムスとした尾椎が、実はアロサウルスのものだと結論付けました。優先権の原則に基づき、アロサウルスはより古い名称であるアントロデムスとされるべきだと主張したのです。この意見は広く受け入れられ、およそ50年にわたり、アントロデムスという名前はアロサウルスと同義語として使用されるようになりました。

しかし、この状況はジェームズ・マドセンの研究によって変化します。マドセンはクリーブランドロイド発掘地で発掘されたアロサウルスの標本を分析し、アントロデムスの化石が不十分な情報しか提供していないと指摘しました。具体的には、アントロデムスの化石は発見された地層に関する情報が欠落しており、種を識別するのに十分な特徴を備えていないとされました。そのため、マドセンはアロサウルスという名称を使用すべきだと結論付け、この考え方は後の研究者にも受け入れられました。

現在、アントロデムスは種を識別するのに十分な特徴が欠如しているため、疑問名(nomen dubium)とされています。つまり、アントロデムスという名前は、どの恐竜を指しているのか不明確であるため、科学的な分類には用いられないということです。

結論

アントロデムスの物語は、古生物学における分類の複雑さと、化石証拠の解釈の難しさを示しています。初期の誤認から、アロサウルスとの関連性、そして最終的に疑問名とされるまでの経緯は、古生物学研究における命名法や分類の変遷を理解する上で貴重な事例となっています。今後も新たな化石の発見や研究の進展によって、アントロデムスに関する理解が深まる可能性は残されていますが、現時点ではアロサウルスとの関連性を示唆する不十分な証拠に基づく疑問名として扱われています。この事例は、化石の発見から研究、そして分類に至るまでの過程で、詳細な情報と厳密な分析がいかに重要であるかを示しています。

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