アントン・クエルティ

アントン・エミル・クエルティ

アントン・エミル・クエルティは、1938年7月21日にオーストリアの首都ウィーンで生を受けました。第二次世界大戦中の困難な時期を経て、彼は幼少期の1944年に家族と共に新たな生活を求め、アメリカ合衆国へと移住します。移住先のマサチューセッツ州ボストンで、彼はアーサー・ゴールドマン氏に師事し、ピアノの基礎を固めました。その才能は早くから認められ、驚くべきことにわずか9歳で、権威あるボストン・ポップスとの共演を果たしました。このデビュー公演で彼は、エドヴァルド・グリーグ作曲の劇的なピアノ協奏曲イ短調を演奏し、聴衆に深い印象を与えました。

クエルティ氏の音楽教育は、その後の数年間で多様な指導者と教育機関を経て進められました。まず、1948年から1952年までの期間、彼はボストンにあるロンギー音楽院に在籍し、集中的な音楽学習に励みました。ピアノ演奏技術については、エルヴィン・バドキー氏とグレゴリー・タッカー氏という二人の教師から熱心な指導を受けました。同時に、音楽の創作面にも興味を持ち、作曲をアーサー・シェファード氏に師事し、その基礎を築きました。ロンギー音楽院での4年間の学びを終えた後、彼は1952年から翌1953年にかけて、メリーランド州ボルチモアのピーボディ音楽院へと移り、学びを続けました。ここでは、卓越したピアニストであるエルネ・バロー氏からピアノの手ほどきを受け、また、現代音楽の革新者として知られる作曲家ヘンリー・カウエル氏のもとで作曲の視野を広げました。さらに、1953年から1955年にかけての期間には、アーサー・レッサー氏にピアノの更なる磨きをかけ、マーセル・ディック氏から作曲について深く学ぶ機会を得ました。彼の教育期間の中で、特に重要であったのは、1955年から1958年までの3年間、フィラデルフィアに位置する名門カーティス音楽院での研鑽です。ここでは、20世紀を代表する偉大なピアニストであり、多くの名演奏家を育てたルドルフ・ゼルキン氏、そしてポーランド出身の伝説的なピアニスト、ミェチスワフ・ホルショフスキ氏という二人の巨匠のもとで、演奏技術と音楽解釈において最高のレベルを追求しました。

ロンギー音楽院に在学していた頃から、クエルティ氏は学内での活動に留まらず、積極的に演奏の場を求めていました。ジンブラー・シンフォニエッタやMIT交響楽団といった様々なオーケストラとの共演を通じて、キャリアの初期から実践的な経験を積み重ねていきました。彼の演奏家としてのキャリアを大きく飛躍させた出来事は、1957年に開催された権威あるレーヴェントリット国際コンクールでの優勝です。この輝かしい栄冠は、彼を国際的な舞台へと押し上げ、プロフェッショナルなピアニストとして世界中で本格的な演奏活動を展開する扉を開きました。コンクール優勝後、彼は多忙な演奏スケジュールをこなし、その才能と技術を世界に示しました。

1965年、クエルティ氏は活動の中心をアメリカからカナダへと移すことを選択します。新たな定住地となったカナダでは、トロント大学に迎えられ、アーティスト・イン・レジデントとしてその芸術的活動を続けました。さらに、彼は自身の豊富な知識と経験を次世代に伝えることにも情熱を注ぎました。1968年から1972年までの間、トロント大学の教授として教壇に立ち、若い才能たちの指導にあたりました。教育者としても多大な貢献を果たしたクエルティ氏は、ピアニスト、作曲家、そして教師という三つの側面から、クラシック音楽界において重要な役割を果たし続けています。その生涯は、幼少期からの早熟な才能、多岐にわたる学び、そして国際的な成功を経て、教育者としての貢献へと続く、音楽に捧げられた類稀なる軌跡と言えるでしょう。

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