アンドラーシ・ジュラ (子)

アンドラーシ・ジュラ伯爵：二重帝国の政治家

アンドラーシ・ジュラ伯爵（1860年6月30日-1929年6月11日）は、19世紀末から20世紀前半にかけて、オーストリア＝ハンガリー二重帝国で活躍した著名な政治家です。ハンガリー王国首相も務めたアンドラーシ・ジュラ（1世）の息子として生まれ、父と同じ名を受け継ぎました。彼の経歴は、ハプスブルク帝国の盛衰と、第一次世界大戦という激動の時代を反映しています。

華麗なる家系と政治への道

アンドラーシ家は、ハンガリーにおける名門貴族として知られていました。その家系を受け継いだジュラ伯爵は、幼少期から貴族社会のしきたりや政治情勢に接し、自然と政治への関心を抱いたと考えられます。彼は、高い教育を受け、外交や政治に関する知識を深めていったことでしょう。

ハンガリー王国での活躍

1906年から1910年にかけて、彼はハンガリー王国政府の内務大臣を務めました。この時代、ハンガリーはオーストリアとの関係の中で独自の政治的立場を保とうと努力していました。内務大臣としての役割は、国内の安定維持と、オーストリアとの複雑な関係を調整することなど、非常に困難なものであったと考えられます。

第一次世界大戦と外交

第一次世界大戦の末期、1918年10月末から11月初めにかけて、アンドラーシ・ジュラ伯爵は、二重帝国の共通外相という重要な地位に就任しました。帝国は崩壊の危機に瀕しており、連合国との停戦交渉という極めて困難な局面に立たされました。

彼の外交手腕が試されたのは、まさにこの時です。1918年10月27日、彼はアメリカ合衆国大統領ウッドロウ・ウィルソンからの覚書を受け、チェコスロバキアなどの新国家の独立を承認し、これらの国々と交渉を行うという決断をしました。これは、帝国の崩壊を止められないと判断した、苦渋の決断だったのかもしれません。

戦後の混乱と亡命

第一次世界大戦後、ハンガリーは混乱の時代を迎えます。クン・ベーラ率いる共産主義政権が成立するなど、激動の時代でした。この混乱の中で、アンドラーシ伯爵はスイスに亡命を余儀なくされましたが、後にハンガリーに帰国します。

復位運動への関与

1921年、彼はかつての皇帝カール1世のハンガリー王復位運動に関与しました。しかし、この運動は失敗に終わります。これは、ハプスブルク帝国の終焉が、単なる政治的変化ではなく、歴史の大きな転換点であったことを示しています。

歴史家としての側面

政治家としてのキャリアを終えた後、アンドラーシ・ジュラ伯爵は『世界大戦前史』などの著作を執筆しました。この著作活動を通じて、彼は自らの経験や見解を後世に残しました。歴史家としての彼の視点からは、第一次世界大戦とその背景にある複雑な国際関係についての貴重な洞察が得られるでしょう。

参考文献

アンドラーシ・ジュラ伯爵の生涯と業績を知る上で、以下の参考文献が役立つでしょう。

廣實源太郎 「アンドラーシ」 『新編西洋史辞典』 東京創元社、1983年
A. J. P. テイラー『ハプスブルク帝国 1809〜1918 - オーストリア帝国とオーストリア＝ハンガリーの歴史』〈倉田稔：訳〉 筑摩書房、1987年　ISBN 978-4480853707　／ちくま学芸文庫、2021年（文庫版解説：大津留厚）。ISBN 978-4-480-51062-4
大津留厚 『ハプスブルク帝国』〈世界史リブレット〉 山川出版社、1996年　ISBN 4634343002
南塚信吾（編） 『ドナウ・ヨーロッパ史』〈新版世界各国史〉 山川出版社、1999年　ISBN 4634414902


アンドラーシ・ジュラ伯爵の生涯は、激動の時代を生きた一人の貴族・政治家の物語であり、同時に、ハプスブルク帝国の興亡を理解する上で欠かせない重要な歴史の一端です。彼の行動や決断は、現代においても多くの示唆を与えてくれます。

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