アンドリュー・サリス

アンドリュー・サリス：映画批評界の巨匠

アンドリュー・サリス（1928年10月31日 - 2012年6月20日）は、アメリカを代表する映画評論家であり、特に「作家主義（Auteur Theory）」の提唱者として知られています。彼の批評は、1960年代から90年代にかけての英語圏の映画批評において、非常に大きな影響力を持ちました。

生い立ちとキャリアの始まり

ニューヨークのブルックリンで生まれたサリスは、コロンビア大学を卒業後、兵役を経て映画コラムニストとしてのキャリアをスタートさせました。1954年にはパリへ渡り、フランスの映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』で活躍していたフランソワ・トリュフォーやジャン＝リュック・ゴダールといった映画監督と交流を深めました。

『ヴィレッジ・ヴォイス』での活躍

帰国後、サリスは『ヴィレッジ・ヴォイス』誌で映画コラムニストとして抜擢され、その戦闘的な批評スタイルで注目を集めました。特に、アルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』を高く評価したことは、当時の主流メディアの批評とは対照的であり、彼の存在を際立たせました。読者からの苦情が殺到する中でも、編集部はサリスの続投を決定し、その後29年間にわたり同誌で映画コラムを掲載することになりました。

映画批評家としての貢献

サリスは、アメリカ映画だけでなく、イタリア映画やフランス映画など、外国映画の魅力を広く紹介し、一般観客の映画鑑賞の幅を広げました。彼のコラムは若者を中心に大きな影響力を持ち、アメリカを代表する映画評論家としての地位を確立しました。1966年には、全米映画批評家協会の創立メンバーにも名を連ねています。

作家主義の提唱

サリスは、「作家主義」の英語圏における中心的な提唱者としても知られています。作家主義とは、映画監督を作品の創造者として重視する批評理論であり、サリスは1968年に発表した著書『アメリカ映画：監督と潮流 1929-1968』で、この理論を全面的に展開しました。この著書は、映画批評のみならず、アメリカの映画研究の潮流にも大きな影響を与えました。

教育活動と国際的な評価

1969年、サリスは映画評論家のモリー・ハスケルと結婚しました。その後、コロンビア大学やニューヨーク大学で教鞭を執り、世界各国の主要映画祭にも招かれるなど、国際的な知名度を高めました。サリスの活動は映画監督や脚本家など、実作者にも大きな影響を与え、映画監督のマーティン・スコセッシは、サリスを「当時の監督志願者にとって最も重要な映画の教師だった」と評しています。

論争と批判

サリスの戦闘的な批評スタイルは晩年まで変わらず、多くの論争を巻き起こしました。特に、『ニューヨーカー』誌のコラムニスト、ポーリン・ケイルとの論争は有名で、「作家主義」を巡って激しく対立しました。ケイルは、サリスの作家主義を「映画作品に内的な意味を求めすぎている」と批判し、映画は多くの人々の共同作業によって成立するものであると主張しました。また、サリスの『アメリカ映画』における監督評価は、彼の個人的な好悪に基づいているとの批判も多くありました。

評価の変遷と功績

サリスは、ビリー・ワイルダーやスタンリー・キューブリックといった映画監督を、初期には酷評していましたが、晩年には彼らを高く評価するようになりました。この評価の変化は、作家主義に対する批判の根拠となりました。しかし、サリスが提唱した作家主義は、映画を芸術作品として捉える見方を広め、映像技法や表現の意味を監督の視点から読み解く手法は、当時の映画批評の水準を高め、その後の映画研究の発展に重要な貢献をしました。

エピソード

映画『ギャラクシー・クエスト』では、サリスが過去に酷評した映画のプロデューサーが、サリスを揶揄して敵方の司令官に「サリス」という名前を付けたというエピソードがあります。

著書

サリスは多数の著書を発表しており、その中でも特に有名なのは、『アメリカ映画：監督と潮流 1929-1968』です。その他、以下の書籍があります。

The films of Josef von Sternberg (1966)
Interviews with film directors (1968)
The film (1968)
Confessions of a cultist: on the cinema, 1955-1969 (1970)
Hollywood voices; interviews with film directors (1972)
The primal screen; essays on film and related subjects (1973)
The John Ford movie mystery (1975)
Politics and cinema (1978)
Reminiscences of Andrew Sarris (1981)
The American cinema : directors and directions, 1929-1968 (1996)
“You ain’t heard nothin yet”; : the American talking film, history and memory, 1927-1949 (1998)

関連事項

ヴィレッジ・ヴォイス
ポーリン・ケイル
ニューヨーク・オブザーヴァー
全米映画批評家協会
モリー・ハスケル

結論

アンドリュー・サリスは、映画批評の分野において多大な影響を与えた人物です。彼の提唱した「作家主義」は、映画を芸術として捉える見方を広め、その後の映画研究の発展に大きな貢献をしました。彼の生涯と業績は、これからも映画史において重要な位置を占め続けるでしょう。

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