作家主義

作家主義：映画監督の個性を重視する考え方

映画を芸術作品として捉える視点の一つに「作家主義」があります。これは、映画を監督個人の創造性と表現力の結晶と見なす考え方で、1950年代のフランスで生まれた批評理論です。特に、映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』を拠点とする批評家たちに支持され、ヌーヴェルヴァーグの勃興に大きな影響を与えました。

作家主義の起源と展開

作家主義の思想的ルーツは、アンドレ・バザンら『カイエ・デュ・シネマ』の批評家たちの考えに遡ります。彼らは、映画を監督の「作家性」が顕著に表れる芸術表現と位置づけました。この考え方は、アレクサンドル・アストリュックの有名な言葉「カメラ＝万年筆」にも反映されています。映画監督は、カメラをペンとして自由に表現できる作家である、というわけです。

作家主義の概念を最初に明確に提示したのはフランソワ・トリュフォーです。1955年、彼は『カイエ・デュ・シネマ』誌上に「アリババと『作家主義』」を発表し、伝統的な映画制作手法と対比的に「作家の映画」という概念を打ち立てました。彼は、監督の個性とビジョンが強く反映された映画こそが真の芸術作品であると主張しました。

トリュフォーは、脚本ユニット「オーランシュ＝ボスト」のような、集団的な脚本創作を「良質の伝統」に属するものとして批判しました。彼らにとって、監督こそが映画における唯一の「作家」であり、その個性が全面に出た作品こそが評価されるべきだと考えました。

作家主義の影響と評価

作家主義は、ヌーヴェルヴァーグの多くの監督たちに受け入れられ、彼らの映画制作に大きな影響を与えました。彼らは、従来の商業映画の枠を超え、監督自身の個性や視点が際立つ作品を制作することで、映画界に新たな風を吹き込みました。

しかし、作家主義は批判も受けてきました。監督の独善的な作品になりがちであること、商業的な成功とは必ずしも一致しないことなどです。実際、多くの作家主義映画は興行的には成功せず、批評家や映画祭関係者からの評価に頼る傾向がありました。また、プロデューサー主導のシステムの台頭によって、監督の権限が弱まる傾向も出てきました。

作家主義の意義

作家主義は、映画を単なる娯楽作品としてではなく、芸術作品として捉える視点を広めました。監督の個性やビジョンを重視することで、映画表現の可能性を広げ、多様な映画作品が生まれる土壌を作ったことは、その大きな意義と言えるでしょう。映画史における重要な概念として、現在も様々な議論を呼び続けています。また、ヒッチコックやホークスといった娯楽映画監督の作品を、独自の作家性を有するものとして再評価する契機ともなりました。

まとめ

作家主義は、映画監督の創作性を重視する重要な映画批評理論です。ヌーヴェルヴァーグ運動に多大な影響を与え、映画史に大きな足跡を残しました。しかし、その実践においては、商業的成功やプロデューサーとの関係性など、様々な課題を抱えてきました。それでも、映画を監督の芸術表現として捉える視点を提示したことで、現代映画の多様性に貢献したことは間違いありません。

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