カイエ・デュ・シネマ

カイエ・デュ・シネマ：フランス映画批評の揺籃とヌーヴェルヴァーグの源流

『カイエ・デュ・シネマ』は、フランスを代表する映画批評誌として、世界映画史に計り知れない影響を与えた存在です。1951年の創刊以来、数々の名批評家や映画監督を輩出し、特にフランスのヌーヴェルヴァーグ運動の隆盛に大きく貢献したことで知られています。

創刊と作家主義

同誌の創刊は、アンドレ・バザン、ジャック・ドニオル＝ヴァルクローズ、ジョゼフ＝マリー・ロ・デュカらによって推進されました。彼らの活動以前にも、映画批評誌『ラ・ルヴュ・デュ・シネマ』や『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』が存在しましたが、それらは短命に終わっていました。『カイエ・デュ・シネマ』は、これらの前身誌の系譜を受け継ぎつつ、新たな方向性を模索したと言えるでしょう。

バザンは、同誌の編集長として、映画批評に「作家主義」という独自の視点を取り入れました。これは、映画監督を芸術家として捉え、その作品世界を監督個人の表現として重視する考え方です。この斬新なアプローチは、従来の映画批評の枠を超え、フランス映画界に大きな衝撃を与えました。

ヌーヴェルヴァーグとの関わり

『カイエ・デュ・シネマ』には、エリック・ロメール、ジャック・リヴェット、ジャン＝リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、クロード・シャブロルといった、後にヌーヴェルヴァーグを代表する映画作家たちが集まりました。彼らは、批評家として活動する中で、映画に対する独自の視点と情熱を磨いていきました。同誌が提供したプラットフォームは、彼らが自身の映画制作へと進むための重要なステップとなりました。批評家としての経験は、彼らの革新的な映画製作に大きな影響を与えたのです。

編集長の変遷と時代の変化

1958年にバザンが死去した後も、『カイエ・デュ・シネマ』は活動を継続しました。ジャン＝ルイ・コモリが編集長を務めた時期には、1968年以降の社会運動の影響を受け、雑誌の方向性も変化していきます。左傾化や理論化が進み、発行部数の減少も経験しましたが、セルジュ・ダネーなどの活躍により、読者層を取り戻しました。

その後も、時代に合わせて変化を遂げながら、『カイエ・デュ・シネマ』は活動を続けています。現在ではジャン＝ミシェル・フロドンがディレクター、エマニュエル・ビュルドーが編集長を務め、ローラン・ラボリウェブ編集長による公式サイトでは、日本語を含む多言語による記事翻訳も提供されています。

グローバルな影響と記念号

『カイエ・デュ・シネマ』はフランス国内にとどまらず、世界中の映画愛好家や批評家に影響を与えました。創刊300号、400号、500号、600号といった節目の号では、ジャン＝リュック・ゴダール、ヴィム・ヴェンダース、マーティン・スコセッシ、北野武といった著名な映画監督を特別編集長に迎え、記念号を発行しています。これは、同誌のグローバルな影響力を示す好例と言えるでしょう。

日本版『カイエ・デュ・シネマ・ジャポン』

1991年には、日本語版『カイエ・デュ・シネマ・ジャポン』が創刊されました。梅本洋一を編集長として、フランス本誌の記事翻訳や独自の批評活動が展開されました。青山真治、篠崎誠といった日本の映画作家たちも、この雑誌から巣立っていきました。しかし、2001年には休刊という結果を迎えています。

結び

『カイエ・デュ・シネマ』は、単なる映画批評誌にとどまらず、映画史に深く刻まれた重要な存在です。その創刊から現在まで続く歴史、そしてヌーヴェルヴァーグへの貢献は、映画文化における同誌の揺るぎない地位を示しています。今後も、世界中の映画愛好家にとって、重要な情報源であり続けることでしょう。

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