アンドレ・S・ラバルト

アンドレ・S・ラバルト（1931-2018）は、フランスを代表する映画批評家、映画プロデューサー、監督、脚本家、そして俳優として、多岐にわたる才能を発揮した人物です。彼の名は、50年以上にわたって制作された伝説的なテレビドキュメンタリーシリーズ『われらの時代のシネアストたち(Cinéastes de notre temps)』のプロデューサー兼監督として、世界中の映画愛好家にとって最も記憶に残るものとなっています。

ラバルトは1931年、フランス南西部のオロロン＝サント＝マリーに生まれました。1950年代初頭、映画批評家としてのキャリアをスタートさせ、かの有名な映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』の創設者アンドレ・バザンと出会い、編集に参加するよう誘われます。当初、映画に関する知識や情熱は他の編集者たちと比べて不足していたと自認していたラバルトでしたが、独自の視点と鋭い批評眼によって、やがて『カイエ・デュ・シネマ』に不可欠な存在となっていきました。

彼の批評は、ジャン・ルノワール、ハワード・ホークス、ジョン・フォードといった巨匠への深い理解と賞賛を示すと同時に、ヌーヴェルヴァーグやジョン・カサヴェテス、シャーリー・クラークといった新進気鋭のアメリカ独立系映画作家たちにも光を当てました。また、イタリアの若手映画監督たちの作品を積極的に擁護するなど、国際的な視野も持ち合わせていました。

1964年、ラバルトは彼の名を不朽のものとするプロジェクト、『われらの時代のシネアストたち』をスタートさせます。ジャニーヌ・バザンとの共同制作によるこのシリーズは、52分という尺で、世界的に著名な映画監督たちのポートレートを描き出しました。ブニュエル、フォード、ゴダール、カサヴェテス、ヒッチコックなど、錚々たる顔ぶれが彼のカメラの前に登場し、それぞれの映画人生や作品への想いが深く掘り下げられていきます。

このシリーズ最大の特徴は、その反スペクタクル的な姿勢にあります。センセーショナルなスクープや演出を排し、簡潔な解説さえ最小限に抑えることで、監督たちの生の言葉や映像を通して、彼らの内面世界を自然な形で表現することに成功しています。視聴者は、インタビューという形式を意識することなく、まるで監督たちの日常や創作活動に密着しているかのような臨場感を味わうことができます。

1980年代に一旦中断したシリーズは、1990年代初頭、『映画、われらの時代の(Cinéma, de notre temps)』と改題され、新たな形で再開しました。これは、シリーズの継続と時代性への対応、そして既に亡くなった監督たちの作品を取り上げるというラバルトの意志を象徴するものでした。シリーズ休止中も、ラバルトは『Cinéma, cinémas』や『Égale cinéma』といった番組を制作し、精力的に活動を続けました。また、振付師ウィリアム・フォーサイスについてのドキュメンタリーも手掛けるなど、その創作意欲は衰えることを知りませんでした。

ラバルトは常に批評家の視点、分析的精神を持ち続けていました。カメラの前でも後ろでも、彼の仕事は常に客観的な視点を持ち、多様な視点を取り入れながら対象を深く理解しようとする姿勢に貫かれていました。ジャン＝リュック・ゴダールとは特に深い交流があり、ゴダールの初期作品から晩年の作品まで、数多くの映画に出演しています。これは単なる「批評家の余技」の域をはるかに超える、俳優としての確かな実力があったことを示しています。

ラバルトは、映画批評家、プロデューサー、監督、脚本家、俳優として、映画界に多大な貢献をしました。彼の残した作品群は、今後の映画史研究においても重要な資料となることは間違いありません。2018年、86歳でパリにて永眠しました。彼の功績は、これからも映画界に語り継がれていくでしょう。

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