アンドレ・バザン

アンドレ・バザン：戦後フランス映画界に革命を起こした批評家

アンドレ・バザン（1918年 - 1958年）は、20世紀を代表する映画批評家の一人であり、フランスのヌーヴェルヴァーグ運動に大きな影響を与えた人物として知られています。「ヌーヴェルヴァーグの精神的父」と称されることもあります。本稿では、彼の生涯と批評活動、そして映画史における貢献について探ります。

教員志望から映画批評家へ

1918年、フランスのアンジェに生まれたバザンは、当初は教職を目指していました。パリ郊外の師範学校に入学しますが、教職資格の試験に失敗。その後、彼は俳優・劇作家のピエール＝エメ・トゥシャールと出会い、映画の世界に足を踏み入れます。

シネクラブの創設や、複数の雑誌への寄稿を通して、バザンは次第に映画批評家として頭角を現していきます。彼が執筆した映画評論は、鋭い洞察力と洗練された文体で知られ、多くの読者を引きつけました。特に、ロジェ・レーナルトの映画に関する記事に影響を受けた彼は、自身の批評活動を通して、質の高い映画を一般大衆に紹介することに尽力しました。

『カイエ・デュ・シネマ』とヌーヴェルヴァーグ

1944年のフランス解放後、バザンは「労働と文化」、「民衆と文化」といった団体に携わり、大衆教育に貢献。同時に、映画評論活動を続けながら、少年鑑別所を出たばかりの若きフランソワ・トリュフォーを支援します。トリュフォーにとって、バザンは精神的な支柱であり、人生の師のような存在でした。

1951年、バザンはジャック・ドニオル＝ヴァルクローズと共に映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』を創刊、編集長を務めました。この雑誌は、当時新しい映画表現を模索していた若い世代の映画人たちや批評家たちの場となり、ヌーヴェルヴァーグ運動の母体となりました。バザン自身も数多くの評論を執筆し、雑誌の理念を体現する存在でした。

批評活動と独自の視点

バザンは、商業主義に染まらない、芸術性の高い映画を支持しました。彼は、大衆の映画に対する要求を高め、映画文化の向上に貢献することを目指しました。オーソン・ウェルズ、チャールズ・チャップリン、ジャン・ルノワールなど、多くの巨匠たちの作品を深く分析し、独自の視点から解説しました。例えば、マルセル・カルネの『日は昇る』をオーソン・ウェルズの『市民ケーン』に匹敵する傑作として評価したことは有名です。

バザンは、気に入った作品についてのみ執筆するという主義でした。トリュフォーが『パリ語りなば』を高く評価したことから、その批評をトリュフォーに任せたという逸話も残っています。彼は、常に自身の批評眼を貫き、映画に対する誠実な姿勢を保ち続けました。

映画史に刻まれた足跡

1958年、バザンは白血病のため40歳の若さで亡くなりました。彼の死は、映画界に大きな衝撃を与えました。翌年、トリュフォーは自身の長編デビュー作『大人は判ってくれない』をバザンに捧げました。

バザンは、直接ヌーヴェルヴァーグの作品制作に関わったわけではありませんが、彼が残した膨大な映画評論、そして『カイエ・デュ・シネマ』という場を通して、ヌーヴェルヴァーグ運動の勃興に多大な貢献を果たしました。彼の著作は、今日でも映画研究者の間で高く評価されており、映画史に不滅の足跡を残しています。彼の死後も、トリュフォーを始めとした多くの映画作家や批評家たちに影響を与え続け、現代映画にもその影を落としています。彼の著作は、現在も翻訳され、読み継がれています。

主要な著作

バザンの著作は多岐に渡り、彼の映画に対する深い理解と洞察が示されています。代表的な著作として以下のものがあります。

『オーソン・ウェルズ』
『映画とは何か』（全4巻）
『ジャン・ルノワール』
『チャールズ・チャップリン』
* 『残酷の映画の源流』

これらの著作は、彼の映画批評の集大成であり、現代映画論の礎となっています。彼の思想に触れることで、映画をより深く理解し、鑑賞することができるでしょう。

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