アンドレーア・パッラーディオ

アンドレーア・パッラーディオ（Andrea Palladio, 1508年11月30日 - 1580年8月19日）は、イタリアのパドヴァで生まれ、ルネサンス後期に活躍した建築家です。本名をアンドレーア・ディ・ピエトロ・デッラ・ゴンドーラといい、その生涯で数多くの建築物を手がけました。中でも、ヴィラ・ロトンダは彼の代表作として知られています。

生涯

パッラーディオは、粉屋の息子として生まれ、当初は石工としてキャリアをスタートさせました。しかし、ヴィチェンツァに移り住んだ後、人文主義者のジャン・ジョルジョ・トリッシノに見出され、建築家としての才能を開花させます。トリッシノは、古典主義思想やローマ時代の建築についてパッラーディオに教え、数学、音楽、ラテン文学など、幅広い知識を授けました。

パッラーディオは、トリッシノとともにローマを訪れ、古代ローマ建築を実見する機会を得ました。特にウィトルウィウスの『建築十書』を携え、ローマの古代建築を詳細に調査したことが、彼の建築様式に大きな影響を与えています。また、ドナト・ブラマンテやラファエロ・サンティなどの同時代の建築家たちの作品も研究し、最先端の建築デザインを取り入れました。

1546年、パッラーディオはヴィチェンツァ市の公共建築であるパラッツォ・デッラ・ラジョーネ（通称バシリカ）の改修案を提出し、見事採用されました。この改修は、彼の名声を確立するきっかけとなりました。バシリカは、セルリアーナと呼ばれるアーチと柱を組み合わせた開口部を連続させた独特なデザインで、パッラーディオの独創性が際立っています。この成功を機に、パッラーディオは北イタリア各地から設計依頼を受けるようになり、数多くの邸宅や公共建築を手がけました。

ヴィチェンツァでの最初の邸宅建築であるパラッツォ・ポルトは、ラファエロとブラマンテの影響を色濃く受けていますが、パラッツォ・キエリカーティは、ヴェネツィアの伝統にローマ時代の邸宅のイメージを融合させた独自のスタイルを示しています。パッラーディオは、自身の著書で建築物の各部を調和比例によって決定することの重要性を説いていますが、実際にはその通りになっていないものも多く、この点が後に多くの議論を呼びました。

1566年に着工したヴィラ・アルメリコ（ラ・ロトンダ）は、建物四面が同じファサードを持つという特異なデザインが特徴で、後のイギリス建築にも多大な影響を与えました。また、ヴェネツィアではサン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂やイル・レデントーレ聖堂などの建設に携わり、その建築家としての名を不動のものとしました。さらに、パッラーディオは1580年初旬にアカデミア・オリンピコのためにテアトロ・オリンピコを設計しましたが、その年の夏にこの世を去りました。

設計手法

パッラーディオは、平面図を基本にして空間を設計した最初の建築家とされています。それまでの建築家が彫刻家や絵描きとしての視点で建築を捉えていたのに対し、彼は建築を専門とするプロフェッショナルとして活動しました。一般的には、後期ルネサンスからマニエリスムの建築家と分類されていますが、彼の建築は古典建築の要素を取り入れつつも、独自の構成方法を確立しています。

パッラーディオの建築手法で特に有名なのは、セルリアーナ（パラディアーナ）と呼ばれるアーチと柱を組み合わせた開口部の表現です。これは、ローマ建築の研究を通じて彼が影響を受けたものです。また、ジャイアント・オーダーの使用や、住宅にペディメントを取り付けるなど、大胆な手法を駆使し、独自の建築美を追求しました。

影響

パッラーディオは、職業建築家としては最初期の人物であり、他の芸術活動には携わりませんでした。彼の建築は、ローマ時代の建築知識に基づき、考古学的知識と実物の観察に基づいたものです。また、ローマ建築に関する著書『ローマ建築』は、ネオクラシシズムに大きな影響を与えました。

彼の建築理論の集大成である『建築四書』は、後のパッラーディオ主義の標準テキストとなりました。彼の死後、一時的にその名は埋もれましたが、18世紀のイギリスでイニゴ・ジョーンズやバーリントン伯爵によって再評価され、パッラーディオ主義という建築運動が巻き起こりました。現在でも、ヴィチェンツァを中心に多くの建築物が現存し、世界遺産にも登録されています。パッラーディオの建築は、今もなお多くの人々に愛され、その影響力は計り知れません。

もう一度検索