アンナ・カレーニナ (1997年の映画)

『アンナ・カレーニナ』は、文豪レフ・トルストイによる同名の長編小説を原作とした1997年のアメリカ映画です。バーナード・ローズが監督と脚本を手掛け、主演のアンナ・カレーニナをフランスの女優ソフィー・マルソーが演じました。本作はトルストイの原作としては7度目の長編映画化にあたり、特筆すべきはその撮影地の選択にあります。アメリカの製作会社による映画化作品として、全編がロシア国内で撮影されたのは、本作が初めての事例でした。サンクトペテルブルクやモスクワといった歴史的な都市が舞台となり、当時のロシアの雰囲気を再現する美術や衣装にも力が注がれています。

主要キャスト

物語の中心人物であるアンナ・カレーニナには、ソフィー・マルソーが配役されました。アンナの運命を大きく変える若き将校アレクセイ・ヴロンスキー伯爵を演じたのはショーン・ビーンです。また、原作のもう一つの重要な筋であるレヴィンとキティの関係を描く上で、コンスタンティン・ディミートリッチ・レヴィンにはアルフレッド・モリナ、エカテリーナ・シチェルバツキー（キティ）にはミア・カーシュナーが起用されました。その他、アンナの夫アレクセイ・カレーニンをジェームズ・フォックス、アンナの兄ステパン・オブロンスキーをダニー・ヒューストンが演じるなど、国際色豊かな実力派俳優が顔を揃えています。カレーニン家の執事カピトーニッチ役には、ロシア人俳優のピョートル・シェロホーノフが出演しました。

日本語吹替版も製作されましたが、過去に発売されたVHSや旧盤DVDに収録されており、現在市販されている新盤DVDには残念ながら収録されていません。

スタッフ

製作陣には、監督と脚本を兼任したバーナード・ローズのほか、製作にブルース・デイヴィ、撮影監督にダリン・オカダ、美術にジョン・マイヤー、編集にヴィクトール・デュ・ボイス、衣装デザインにマウリツィオ・ミレノッティが名を連ねています。音楽監督は名指揮者ゲオルク・ショルティが担当しました。製作はアイコン・プロダクションズが行っています。

作品の評価と特徴

本作は、特に全編ロシアロケによる当時の景観の再現度や、主要人物の関係性に焦点を当てた演出が評価されています。評論家からは、アンナとヴロンスキーの情熱的かつ破滅的な愛、そしてレヴィンとキティの純粋で穏やかな関係という、原作における二つの対照的な人間関係に光を当てた点が新しいとの指摘がありました。ロシアの古都で撮影された映像は美しく、物語の時代背景を色濃く映し出しています。

主演のソフィー・マルソーは、このアンナ役について深く語っています。彼女は18歳で原作に感銘を受け、10年後にこの役のオファーを受けたことに運命的なものを感じたといいます。特に、アンナが子供を置いて他の男性のもとへ走ったという解釈について、彼女自身はアンナが望んで子供を置き去りにしたのではなく、やむを得ない状況や自身の内なる葛藤の結果であると解釈しました。また、アンナの行動に対する自信のなさや罪悪感が、最終的な悲劇を招いた要因だと分析しています。マルソーは、通常は役との間に一定の距離を置くようにしているそうですが、アンナ役には完全に同化してしまい、「ブラックホールのように飲み込まれた」と表現しています。役から抜け出すのに時間を要したほど、彼女にとって強烈な体験だったようです。自身のキャリアにおける最高の役だと感じながらも、あまりに役と同化しすぎたため、完成した映画を見るのが難しいとも語っています。このインタビューからは、彼女がいかに真摯にアンナという複雑なキャラクターと向き合ったかが伺えます。

本作は、過去にも度々映画化されてきたトルストイの不朽の名作を、実際の舞台となったロシアで撮影することで、視覚的なリアリティを追求したバージョンと言えるでしょう。愛、裏切り、社会のしがらみといった普遍的なテーマが、19世紀ロシアの壮麗な背景のもとで描かれています。

アンナ・カレーニナ (1997年の映画)