アンナ・コムネナ

アンナ・コムネナ：東ローマ帝国の皇女にして歴史家

アンナ・コムネナ（1083年12月2日 - 1154年から1155年頃）は、東ローマ帝国（ビザンツ帝国）のコムネノス王朝の皇族であり、歴史家としても重要な人物です。父はコムネノス王朝の初代皇帝アレクシオス1世コムネノス、母は有力貴族ドゥーカス家出身の皇后エイレーネー・ドゥーカイナです。

生涯

誕生から少女時代

アンナは1083年、コンスタンティノープルの大宮殿で誕生しました。彼女自身が著書『アレクシアス』の中で、「土曜日の夜明けに生まれた女の子は、父親にそっくりだった」と語っています。幼少期には、当時の皇帝ミカエル7世の息子コンスタンティノス・ドゥーカスと婚約し、将来の皇后となることが期待されていましたが、弟ヨハネスの誕生とコンスタンティノスの急死により、その夢は断たれます。

アンナは高度な教育を受け、ギリシャ古典文学、神話、地理学、修辞学、弁証法、そしてプラトンとアリストテレスの哲学に通じました。彼女自身も『アレクシアス』の序文で、自身の学識を誇らしげに語っています。

政略結婚

1097年、アンナはマケドニアの名門軍事貴族ニケフォロス・ブリュエンニオスと政略結婚しました。この結婚は、アレクシオス1世がかつて敵対していたブリュエンニオス家を政権に取り込むためのものでした。

父の死と弟ヨハネスへの陰謀

1118年、父アレクシオス1世が亡くなると、アンナは母と共に夫を皇帝にしようとしましたが、失敗に終わります。弟ヨハネスがヨハネス2世として即位すると、彼女は翌1119年、弟を暗殺するクーデターを企てましたが、夫の消極的な態度によりこれも失敗します。

弟との和解・修道院への隠棲

クーデター失敗後、アンナは逮捕され財産を没収されますが、後に弟と和解し、財産を取り戻します。その後、母が建立したケカリトメネ修道院に隠棲し、学問に励む生活を送ります。この時、弟ヨハネス2世は姉に寛大な処置をしたことで「カロヨハネス（善良なるヨハネス）」と呼ばれるようになりました。

修道院での隠棲生活の中で、アンナは哲学、神学、医学、文学、占星術など、幅広い学問を深めていきました。

夫ニケフォロスの死から歴史家となるまで

1136年、夫ニケフォロスが亡くなると、アンナは夫が書き残した歴史書を引き継ぎ、『アレクシアス』を完成させます。これは、父アレクシオス1世の生涯を綴った歴史書であり、彼女は世界史上でも数少ない女性歴史家として名を残すことになりました。彼女は、体験者への聞き取りや宮廷文書の閲覧など、徹底した取材を行いました。

アンナの死

『アレクシアス』を完成させた後、アンナはケカリトメネ修道院で没しました。正確な没年は不明ですが、1154年から1155年頃と推測されています。彼女は孤独のうちに世を去ったとされています。

子女

アンナは、ニケフォロス・ブリュエンニオスとの間に4人の子をもうけました。

アレクシオス・コムネノス
ヨハネス・ドゥーカス
エイレーネー・ドゥーカイナ
マリア（姓不詳）

東ローマ帝国では、子供の名前には祖父母の名前が使われるのが一般的でしたが、アンナの子供たちは、母方の祖父の名前や母方の祖母の名前が優先されるなど、独特の命名法が用いられました。

容姿

アンナの肖像画は残されていませんが、友人たちによる『追悼文』には、彼女の容姿が「丸顔で輝く瞳、虹のような弓形の眉、すらっとした鼻、薔薇の蕾のような小さな口、そして白く赤い肌」と描写されています。

アンナ・コムネナを扱った作品

アンナの生涯は、小説や漫画など、様々な作品で描かれています。

小説：トレーシー・バレット『緋色の皇女アンナ』
漫画：佐藤二葉『アンナ・コムネナ』

まとめ

アンナ・コムネナは、皇女として生まれながらも、政治的な陰謀に巻き込まれ、波乱万丈な人生を送りました。しかし、その一方で、高い学識を持ち、歴史家としても傑出した才能を発揮しました。彼女が残した『アレクシアス』は、東ローマ帝国の歴史を知る上で、非常に重要な資料となっています。

もう一度検索