コムネノス王朝

コムネノス王朝の興亡：東ローマ帝国の再興と衰退

コムネノス王朝（1081年 - 1185年）は、東ローマ帝国（ビザンツ帝国）中期に隆盛した王朝であり、ユスティニアヌス朝、マケドニア朝に次ぐ、帝国3度目の拡大期を築きました。

アレクシオス1世の即位と帝国の再建

1081年、軍事貴族出身のアレクシオス・コムネノスが、時の皇帝ニケフォロス3世ボタネイアテスを退位させ、皇帝に即位しました。この即位は、それまでの文官貴族と軍事貴族の対立の中で、後者が勝利した象徴と捉えられてきました。コムネノス朝時代は、コムネノス家と姻戚関係にある有力貴族のみが爵位を得られる体制となり、身分流動性が低くなった点も大きな変化です。当時の帝国は、マケドニア朝時代の中央集権体制が形骸化し、経済力・軍事力が弱体化していました。小アジアの大半はセルジューク朝に占領され、南イタリアはノルマン人に奪われ、北からはペチェネグ人の侵攻が絶えませんでした。アレクシオスの娘アンナ・コムネナは、「帝国は息を引き取ろうとしていた」と語っています。

このような状況下で、アレクシオス1世は、その軍事・内政の手腕を発揮し、帝国の再建に尽力します。彼は、爵位体系や通貨を改革し、軍役と引き換えに徴税権を与えるプロノイア制度を導入しました。また、ドゥーカス家など有力軍事貴族との姻戚関係を築き、コムネノス・ドゥーカス一門を中心とした連合政権を形成しました。ヴェネツィア共和国の支援を受けて海軍を再建し、西欧から傭兵を雇用するなど、軍事力の回復に努めました。セルジューク朝から小アジア西部を奪回し、ペチェネグ人を撃退するなど、帝国の版図を回復することに成功しました。

善良なるヨハネス2世の治世

アレクシオス1世の跡を継いだヨハネス2世は、「善良なるヨハネス」と呼ばれ、国民から尊敬されました。父の政策を継承し、親征を重ねて小アジアの沿岸部をほぼ全て奪回しました。アンティオキア公国に宗主権を認めさせるなど、帝国の勢威を回復させました。北方からのペチェネグ族の侵攻を撃退し、ハンガリー王国の介入を退けるなど、帝国の安全保障を確立しました。首都コンスタンティノポリスは国際交易都市として繁栄し、文化面では「マケドニア朝ルネサンス」の遺産を継承し、古典研究、文学、美術が栄えました。

マヌエル1世の野望と挫折

3代目の皇帝マヌエル1世は、古代ローマ帝国の復興を目指し、積極的な外交政策を展開しました。イタリア遠征、キリキア・シリア地方への遠征、神聖ローマ帝国との外交戦を繰り広げ、盛んに建築活動を行いました。しかし、マヌエル1世の積極的な外交政策と享楽的な生活は、帝国の財政を悪化させました。また、ヴェネツィア人の一斉逮捕により、関係が悪化し、後の第4回十字軍につながる要因を作ってしまいました。
内政面では、コムネノス・ドゥーカス一門が各地で勢力を拡大し、中央政府の統制が及ばない半独立状態になる者も現れました。十字軍との軋轢も深まり、ヴェネツィアやジェノヴァに貿易特権を与えたことで、国内の商工業は衰退し、関税収入も失われました。さらに、1176年のミュリオケファロンの戦いでルーム・セルジューク朝に大敗し、帝国の威信は失墜しました。マヌエル1世の死後、帝国の繁栄は再び失われ、衰退への道を辿ることになります。

アンドロニコス1世の改革とコムネノス王朝の終焉

マヌエルの死後、アレクシオス2世が即位しますが、幼かったため、マヌエルの従兄弟アンドロニコス1世がクーデターで帝位を奪い、アレクシオス2世を殺害しました。アンドロニコスは強権的な統治を行い、大土地所有貴族を抑えようとしましたが、恐怖政治に陥り、有能な人材を失いました。1185年、シチリア王国軍がテッサロニキを陥落させ、首都に迫ると、首都の市民はイサキオス・アンゲロスを擁立して反乱を起こし、アンドロニコス1世は廃位され、虐殺されました。

コムネノス王朝の時代は、帝国がその名に相応しい栄華を誇った最後の時代であり、その後の帝国は衰退の一途をたどります。しかし、アンゲロス家をはじめ、後のラスカリス家、パライオロゴス家も、コムネノス家との姻戚関係を足掛かりに帝位を獲得しました。また、アンドロニコスの孫であるアレクシオスとダヴィドは、トレビゾンド帝国を建国し、東ローマ帝国本体よりも長く存続しました。

コムネノス王朝皇帝一覧

アレクシオス1世コムネノス（1081年 - 1118年）
ヨハネス2世コムネノス（1118年 - 1143年）
マヌエル1世コムネノス（1143年 - 1180年）
アレクシオス2世コムネノス（1180年 - 1183年）
* アンドロニコス1世コムネノス（1183年 - 1185年）



コムネノス王朝は、東ローマ帝国の歴史において重要な役割を果たした王朝です。その興隆と衰退の歴史は、帝国の盛衰を物語る上で欠かせない要素です。

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