アンネ・ゾフィー・フォン・オッター

スウェーデン生まれの傑出したメゾソプラノ歌手、アンネ・ゾフィー・フォン・オッター（1955年5月9日 - ）は、その驚異的なレパートリーの広さと、作品に対する深い洞察に満ちた解釈で、世界の音楽シーンにおいて確固たる地位を築いています。クラシック音楽の主要な分野であるオペラ、宗教曲、歌曲はもちろんのこと、古楽から近現代、さらには異分野とのクロスオーバーに至るまで、彼女の音楽活動は常に多様性と探求心に満ちています。

特に注目すべきは、演奏機会の少ない作曲家たちの作品への取り組みです。古楽、すなわちバッハ以前の時代の音楽から、世紀末ウィーンの作曲家であるアレクサンダー・ツェムリンスキーやエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト、あるいは女性作曲家セシル・シャミナードといった、かつて不当に忘れ去られていた、あるいは十分に評価されてこなかった音楽家たちの作品を積極的に取り上げ、レコーディングや公演を通じて彼らの豊かな音楽を現代に蘇らせることに多大な貢献をしています。この再評価への情熱は、彼女の芸術家としての誠実さを示す一面と言えるでしょう。

オペラの世界では、男性役を女性が演じる「ズボン役」の名手として、その右に出る者は少ないと評されています。彼女の演じるケルビーノ（モーツァルト）、オクテヴィアン（リヒャルト・シュトラウス）、イドラマンテ（モーツァルト）といった役柄は、その歌唱だけでなく、役柄の内面まで掘り下げた知的な表現力によって観客を魅了します。また、楽曲の構造や意図を深く理解し、それを声に乗せて表現する能力は、多くの共演者や批評家から高く評価されています。

その輝かしいキャリアは、スウェーデンのストックホルムに生を受け、外交官であった父親に伴ってボンやロンドンでも過ごした幼少期に始まります。ストックホルムでの基礎教育を経て、ロンドンのギルドホール音楽演劇学校で研鑽を積みました。オペラ歌手としての本格的なデビューは1983年、バーゼル歌劇場でのハイドン作曲《騎士オルランド》のアルチーナ役です。その後、瞬く間に世界の主要なオペラハウスへと活躍の場を広げ、1985年にはロンドンのコヴェント・ガーデン王立歌劇場、1987年にはミラノ・スカラ座、そして1988年にはニューヨークのメトロポリタン歌劇場に、いずれもモーツァルトの《フィガロの結婚》におけるケルビーノ役でデビューを果たし、その存在感を強く印象付けました。

オペラや宗教曲では、初期バロックのクラウディオ・モンテヴェルディ、バロック期のゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル、古典派のヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、そしてロマン派後期から近代にかけてのリヒャルト・シュトラウスといった作曲家たちの作品で特に高い評価を得ています。一方、リサイタルにおいては、ヨハネス・ブラームス、エドヴァルド・グリーグ、フーゴー・ヴォルフ、グスタフ・マーラーといったドイツ・ロマン派以降の優れたリート（歌曲）に深く取り組み、詩と音楽が一体となった世界を繊細かつ力強く表現しています。

常に新しい表現への探求を続ける彼女は、ドイツ語圏の歌手としては比較的珍しいビゼーのオペラ《カルメン》の主役にも挑戦するなど、意欲的なレパートリーの開拓を続けています。また、クラシック音楽の枠を超えた活動も展開しており、2001年にはイギリスのシンガーソングライター、エルヴィス・コステロとの共同名義でクロスオーヴァー・アルバム『フォー・ザ・スターズ』を発表し、オランダのエジソン賞を受賞するなど、ジャンルを超えたコラボレーションでも成功を収めています。

音楽界以外にも活動の幅を広げており、2012年には映画『25年目の弦楽四重奏』に出演。劇中では、再評価に取り組んだ作曲家の一人であるコルンゴルトのオペラ《死の都》からのアリア「マリエッタの歌」を歌唱するなど、多才な一面を見せています。アンネ・ゾフィー・フォン・オッターは、その尽きることのない好奇心と高い芸術性をもって、これからも世界の音楽ファンを魅了し続けるでしょう。

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