アンリ・ド・ラ・トゥール・ドーヴェルニュ (テュレンヌ子爵)

テュレンヌ子爵アンリ・ド・ラ・トゥール・ドーヴェルニュ：フランス軍を代表する名将

アンリ・ド・ラ・トゥール・ドーヴェルニュ（1611年 - 1675年）は、テュレンヌの名で知られる17世紀フランスの傑出した軍人です。フランス元帥、そしてフランス大元帥という最高位に上り詰めた彼の生涯は、ブルボン朝フランスの隆盛を支えた軍事戦略と密接に結びついています。

生い立ちと初期の軍歴

1611年、テュレンヌはブイヨン公アンリの次男としてスダンで生まれました。幼少期は虚弱体質で吃音に悩まされましたが、歴史と地理への並外れた才能を示し、アレクサンドロス大王やカエサルのような英雄に憧れを抱きました。父の死後、彼は自らの弱点を克服するために徹底的な身体鍛錬に励み、14歳で母方の伯父であるオランダ総督マウリッツの軍 campに参加、軍人としての道を歩み始めます。

オランダ軍からフランス軍へ

オランダ軍では、マウリッツやフレデリック・ヘンドリックの下で着実に経験を積み、スヘルトーヘンボス包囲戦での活躍でその才能を高く評価されました。しかし、1630年、テュレンヌはフランス軍に転属します。これは、フランス王家への忠誠を示すようにという母の願いと、フランス軍での昇進の見込みが動機でした。リシュリュー枢機卿に見出された彼は、すぐに歩兵連隊大佐に任命され、頭角を現し始めます。

三十年戦争での活躍

フランス軍転属後、テュレンヌは三十年戦争において数々の戦功を挙げました。ラ・モト＝アン＝バシニー包囲戦での活躍を皮切りに、ロレーヌやライン川での戦いでその名を高めます。特に、マティアス・ガラスとの戦いにおける勇気と手腕は、周囲を大いに魅了しました。ブライザハ攻略やイタリア戦線での後衛作戦の成功など、目覚ましい活躍により、テュレンヌはフランス軍の将来を担う若手幹部としての地位を確立しました。

フロンドの乱とスペイン戦役

三十年戦争終結後、フランスはフロンドの乱という内戦状態に陥ります。当初、テュレンヌは反乱派に加担しましたが、ヴァイマル軍の離反によりネーデルラントへ亡命を余儀なくされます。その後、コンデ公らの釈放を機に王党派と和解し、パリへ帰還しました。しかし、コンデ公が再び反乱を起こすと、テュレンヌは王軍を率いて鎮圧に奔走。フォーブール・サントノレの戦いで反乱を打ち破り、ルイ14世のパリ帰還を実現しました。その後は、スペインとの戦いでコンデ公と再び対峙し、アラス包囲戦での勝利などでフランスの優位を確立。ピレネー条約締結に大きく貢献しました。

ルイ14世時代とオランダ侵略戦争

マザランの死後、ルイ14世の親政が開始されると、テュレンヌはフランス王軍の大元帥に任命されます。カトリックへの改宗を勧められるも、彼はこれを辞退し、プロテスタントとしての信仰を貫きました。ネーデルラント継承戦争やオランダ侵略戦争では、フランス軍を率いて目覚ましい戦果を挙げましたが、オランダの洪水戦術や帝国諸侯の介入により戦況は悪化。テュレンヌはドイツへ転戦し、帝国軍との戦いを繰り広げます。ジンスハイムの戦いでの勝利やトゥルクハイムの戦いでの奇襲成功など、卓越した戦略と戦術でアルザスを奪還しましたが、その過程で略奪行為も行い、その名に汚点を残しました。

壮絶な最期と遺産

1675年、テュレンヌはモンテクッコリ率いる帝国軍との戦いの最中、ザスバッハにおいて砲撃を受け戦死しました。彼の死はフランス全土に深い悲しみをもたらし、敵将モンテクッコリもその死を悼んだと言われています。テュレンヌの遺体はサン＝ドニ大聖堂に埋葬され、フランス革命期には革命派から敬意を払われました。ナポレオンも彼を偉大な名将として高く評価し、その戦術を研究することを推奨しました。

テュレンヌは、戦略的な用心深さ、的確な兵站、そして卓越した瞬発力と冷静さを兼ね備えた稀代の軍人でした。大規模な戦闘を避け、野戦に持ち込むことを得意とした彼は、常備軍の指揮官として、ルイ14世時代のフランス軍を勝利に導きました。その功績は、今日においても高く評価され、フランス軍事史に燦然と輝いています。

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