アンリ・ペリシエ

アンリ・ペリシエ：栄光と悲劇の天才サイクリスト

アンリ・ペリシエ (1889年1月22日 - 1935年5月1日) は、フランス・パリ出身の自転車競技選手。4人兄弟全員がプロ選手という環境で育ち、類まれな才能を開花させました。

華々しい勝利の数々

1911年のプロデビュー以来、数々のタイトルを獲得。ジロ・ディ・ロンバルディア、ミラノ～トリノ、ミラノ～サンレモといった名だたるレースを制覇し、その名を世界に轟かせます。第一次世界大戦勃発前の1914年ツール・ド・フランスでは、最終ステージを含む3ステージを制覇し、総合2位という好成績を収めました。

戦後、1919年にはパリ〜ルーベ、ボルドー〜パリを制覇。その後もジロ・ディ・ロンバルディア3勝、パリ〜ルーベ2勝、パリ〜ツール優勝など輝かしい戦績を重ねました。1924年にはバスク一周総合優勝も果たし、その実力を改めて証明しました。

そして、1923年のツール・ド・フランス。アンリは、圧巻の走りでマイヨ・ジョーヌ（総合首位）を獲得、最終的に2位のオッタビオ・ボテッキアに30分41秒の大差をつけて総合優勝を飾ります。しかし、この優勝は後に大きな論争を呼ぶことになります。

「ツール・ド・フランスの父」との確執

アンリと兄弟は、1921年頃、所属チームへの報酬アップを要求。拒否されたため、チームを離れるという決断をしました。この行動に激怒したのが、「ツール・ド・フランスの父」と呼ばれるアンリ・デグランジュです。デグランジュは新聞上でペリシエ兄弟を痛烈に批判し、1923年のツール優勝を「絶対にありえない」とまで言い放っていました。しかし、アンリはデグランジュの予想を覆し、優勝を果たしたのです。

この勝利に対し、アンリはデグランジュへの怒りを露わにします。「これまで、我々をサーカスの猛獣のように扱ってきた！」と、デグランジュを公然と批判。翌1924年のツールでは、抗議の意思表示としてマイヨ・ジョーヌを着用せず、レースに出場しました。しかし、3ステージ目で棄権。1925年にも出場しましたが、4ステージ目で棄権し、これが彼の最後のツール出場となりました。

破天荒な私生活と悲劇的な最期

アンリは、レースでの大胆な行動だけでなく、私生活でも破天荒な一面を持っていました。気性が激しく、チームメイトを見捨てて他のチームの選手と集団を組むこともありました。

1933年、前妻がアンリとの不仲を苦に猟銃自殺を遂げます。それから2年後、1935年、同棲相手との激しい口論の末、前妻が自殺に使った銃で射殺されるという悲劇に見舞われました。同棲相手は正当防衛を主張し、執行猶予付きの懲役1年の判決を受けました。

ドーピング問題

1924年のツールで兄弟3人が揃って棄権した後、アンリは親しい記者に、ストリキニーネ、コカイン、クロロフォルム、アスピリンなどを使用していたことを告白しています。当時の自転車ロードレース界におけるドーピングの実態の一端を示す出来事でした。

アンリ・ペリシエは、類まれな才能と、激しい個性、そして悲劇的な最期によって、今もなお語り継がれる伝説的なサイクリストと言えるでしょう。彼の生涯は、勝利への飽くなき追求と、その影にある葛藤を鮮やかに描き出しています。彼の功績は、自転車競技史に燦然と輝く一方で、その人生は現代においても、倫理やドーピング問題、そして人間関係の複雑さを私たちに問いかけてきます。

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