アン・モーティマー

アン・モーティマー：薔薇戦争の遠因となった女性

アン・モーティマー（Anne Mortimer, Countess of Cambridge, 1390年12月27日 - 1411年9月22日頃）は、イングランド史における重要な転換点である薔薇戦争の火種となった第3代ヨーク公リチャード・プランタジネットの母であり、イングランド王エドワード4世とリチャード3世の祖母にあたります。彼女の生涯は、中世イングランドの複雑な政治情勢と王位継承権争いに深く関わっています。

生い立ちと家系

1390年、アンはアイルランドのウェストミーズ、ニュー・フォレストで第4代マーチ伯ロジャー・モーティマーとエレノア・ホランドの長女として生まれました。彼女には、第5代マーチ伯エドマンドとロジャーという二人の弟、そして妹エレノアがいました。

母エレノアは、第2代ケント伯トマス・ホランドとアリス・フィッツアランの娘で、さらに遡るとイングランド王ヘンリー3世の曾孫にあたります。この血筋を通じて、アンは王室との深いつながりを持っていました。特に重要なのは、父方の祖母フィリッパ・オブ・クラレンスがエドワード3世の息子ライオネル・オブ・アントワープの娘であったことです。このため、アンはエドワード3世の血を引く王位継承権を持つ有力な人物でした。リチャード2世に子がなかったため、アンの父である第4代マーチ伯ロジャーは、生涯にわたり王位継承者と見なされていました。

1399年、リチャード2世がランカスター家のヘンリー・ボリングブルック（後のヘンリー4世）によって廃位され、アンとその家族の運命は大きく変わります。弟のエドマンドとロジャーは新国王によって城に拘留されましたが、丁重に扱われ、王の子らとともに育てられました。しかし、アンと妹エレノアは、R.A.グリフィスによれば、母エレノアの死後「貧困者」として扱われたとされています。

結婚と子女

1406年5月、アンは初代ヨーク公エドマンド・オブ・ラングリーの次男リチャード・オブ・コニスバラと結婚します。この結婚は保護者の同意なしに行われたため、後にローマ教皇の特免によって正式に認められました。アンとリチャードの間には、以下の3人の子供が生まれます。

イザベル: サー・トマス・グレイと結婚し、後に初代エセックス伯ヘンリー・バウチャーと再婚。多くの子女をもうけました。
ヘンリー: 早世したと考えられています。
* リチャード: 後の第3代ヨーク公リチャード・プランタジネット。薔薇戦争において重要な役割を果たし、後のイングランド王エドワード4世とリチャード3世の父となります。

死とその後

1411年9月22日頃、アンは息子のリチャードを出産した直後に亡くなりました。彼女は夫の両親が眠るキングス・ラングリーの修道院教会に埋葬されました。

夫のケンブリッジ伯リチャードは、アンの死後、アンの弟である第5代マーチ伯エドマンドを王位に就けようと企てますが、マーチ伯自身が密告したことで露見し、処刑されます。その後、リチャードはモード・クリフォードと再婚しますが、子を儲けることはありませんでした。

アンの息子リチャードは、父の死後、ヨーク公の爵位を継承し、薔薇戦争の重要な人物となっていきます。アンの血筋は、後のイングランド王家に大きな影響を与え、彼女の子孫たちが歴史を動かすことになります。

アン・モーティマーは、その生涯において直接的に歴史を動かすことはありませんでしたが、彼女の血筋と結婚が、後のイングランドの歴史を大きく変える要因となったことは間違いありません。彼女の存在は、薔薇戦争という動乱の時代の複雑さを物語る上で、非常に重要な要素です。

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