ライオネル・オブ・アントワープ

ライオネル・オブ・アントワープ：波乱の生涯と王位継承への影響

ライオネル・オブ・アントワープ（Lionel of Antwerp, 1338年11月29日 - 1368年10月17日）は、イングランド王エドワード3世と王妃フィリッパ・オブ・エノーの次男として、フランドルのアントウェルペンで誕生しました。彼は、エドワード黒太子の弟であり、ランカスター公ジョン・オブ・ゴーント、ヨーク公エドマンド・オブ・ラングリー、グロスター公トマス・オブ・ウッドストックという、後のイングランド史に名を残す兄弟たちと共に育ちました。

1362年、ライオネルはクラレンス公に叙爵され、その名が歴史に刻まれることとなります。彼は、その出生地であるアントウェルペンにちなんで、「ライオネル・オブ・アントワープ」と呼ばれるようになりました。彼の生涯は、当時のイングランド王室の政治的な動きや、王位継承問題に深く関わっています。

結婚と子孫

1352年、ライオネルはアルスター伯ウィリアム・ドン・ド・バラの娘、エリザベス・ド・バラと結婚しました。エリザベスは第4代アルスター女伯であり、この結婚によりライオネルはアイルランドにおける影響力を増しました。二人の間には一女フィリッパが生まれ、フィリッパは後に第3代マーチ伯エドマンド・モーティマーと結婚しました。

フィリッパの孫であるロジャー・モーティマーは、リチャード2世の後継者に指名されるなど、その血筋は王位継承において重要な意味を持つようになりました。さらに、フィリッパの曾孫であるアンは、リチャード・オブ・コニスバラと結婚し、ヨーク公リチャード・プランタジネット（後のエドワード4世の父）の母となりました。このように、ライオネルの血筋は、後のヨーク朝の成立に深く関わることになります。

軍事遠征と外交

ライオネルは、1359年に父エドワード3世がフランス遠征に出向いた際、兄の黒太子や弟たちと共に従軍しましたが、目立った戦果を上げることはできませんでした。1360年にはブレティニー条約が締結され、英仏両国は一時的に和睦しましたが、この遠征には、ジェフリー・チョーサーも従軍しており、ライオネルの周辺で起こった出来事が記録されています。チョーサーは、エリザベスに仕えていた時期にライオネルの側近として行動を共にし、1360年には一時捕虜となるなど、波乱に満ちた経験をしています。

晩年と死

最初の妻エリザベスと死別後、ライオネルは1368年にミラノの僭主ガレアッツォ2世・ヴィスコンティの娘ヴィオランテと再婚しました。しかし、再婚した同じ年に、父に先立ち亡くなりました。ヴィオランテとの間には子はいませんでした。ヴィオランテはライオネルの死後、モンフェッラート侯オットーネ3世、さらにローディ領主ルドヴィコ・ヴィスコンティと再婚しました。

王位継承への影響

ヨーク朝を創始したエドワード4世は、ライオネルの弟エドマンドの男系の曾孫ですが、ライオネルの子孫であることも、王位継承権を主張する根拠となりました。エドワード4世は、ライオネルの弟ジョン・オブ・ゴーントの子孫であるランカスター家よりも、自分の方が王位継承権において優位であると主張しました。このように、ライオネルの血筋は、後のイングランド王位継承問題において重要な意味を持つことになったのです。

まとめ

ライオネル・オブ・アントワープは、その短い生涯の中で、イングランド王室の政治、軍事、そして王位継承問題に深く関わりました。彼の結婚と子孫は、後のヨーク朝の成立に重要な役割を果たし、その血筋は歴史に大きな影響を与えました。また、ジェフリー・チョーサーのような歴史上の人物との関わりも、彼の生涯を語る上で興味深い要素となっています。



参考文献

森護『英国王室史話』大修館書店、1986年。
石井美樹子『イギリス 王妃たちの物語』 朝日新聞社、1997年。
* デレク・ブルーア著、海老久人・朝倉文市訳『チョーサーの世界 詩人と歩く中世』八坂書房、2010年。

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