アーサー・コピット

アーサー・コピット：アメリカ演劇史に名を刻んだ劇作家

アーサー・リー・コピット (1937年5月10日-2021年4月2日) は、20世紀後半から21世紀初頭にかけて活躍した、アメリカを代表する劇作家のひとりです。ニューヨーク州生まれのコピットは、ローレンス高等学校卒業後、名門ハーバード大学に進学。在学中から劇作活動を積極的に行い、9作品もの戯曲を上演するという驚異的な才能を発揮しました。

彼の才能はすぐに世間の注目を集めます。1962年には、処女作『ああ父さん、かわいそうな父さん、母さんがあんたを洋服だんすにぶら下げちゃったから、僕すごく悲しいんだ』(Oh Dad, Poor Dad, Mamma's Hung You in the Closet and I'm Feelin' So Sad) でヴァーノン・ライス・アワードを受賞。この賞は後のドラマ・デスク・アワードの前身となる権威ある賞であり、若きコピットの才能を証明する輝かしい受賞となりました。

その後も精力的に作品を発表し続け、1970年の『インディアンズ』(Indians)と1979年の『ウィングス』(Wings)では、ピューリッツァー賞戯曲部門の最終候補にノミネート。さらに、トニー賞にも3度ノミネートされるなど、アメリカ演劇界において高い評価を獲得しました。特に『ウィングス』は、脳卒中により失語症となった元曲芸飛行士の女性の姿を描いた重厚な作品で、日本語訳も出版され、高い評価を得ています。

コピットの代表作のひとつとして挙げられるのは、ミュージカル『ナイン』(Nine)です。フェデリコ・フェリーニ監督の映画『8 1/2|8 1_2』を大胆に舞台化し、1982年にブロードウェーで初演。トニー賞ミュージカル作品賞を受賞するなど大きな成功を収めました。2003年にはアントニオ・バンデラス主演でリバイバル上演され、さらに2009年にはロブ・マーシャル監督により豪華キャストを迎え映画化もされ、世界中にその名を広めました。映画版には、ダニエル・デイ＝ルイス、ジュディ・デンチ、ニコール・キッドマンら、錚々たる俳優陣が出演しています。

コピットの作品は、アメリカ社会における様々な問題を鋭くえぐるものが多いです。先住民の扱いを批判的に描いた『インディアンズ』、軍拡競争と核兵器の脅威を風刺した『エンド・オブ・ザ・ワールド・ウィズ・シンポジウム・トゥ・フォロー』(End of the World with Symposium to Follow)など、社会派的なテーマの作品も数多く手がけました。一方で、『ああ父さん、かわいそうな父さん…』に見られるようなブラックユーモアやシュールな表現も特徴的で、独特の劇作世界を築き上げています。

劇作家としての活動以外に、コピットはウェズリアン大学、イェール大学、ニューヨーク市立大学シティカレッジなどで教鞭をとり、後進の育成にも尽力しました。2005年には、自身の文書類をニューヨーク大学のフェイルズ図書館に寄贈し、自身の作品や資料を後世に残すことにも貢献しています。

アーサー・コピットは、数々の賞に輝き、映画化もされた作品を持つ、アメリカ演劇史に大きな足跡を残した劇作家です。彼の作品は、今日でも世界中で上演され続け、多くの人々に感動と深い思考を与え続けています。彼の死はアメリカ演劇界に大きな損失をもたらしましたが、彼の残した作品群は、今後も多くの観客を魅了し続けることでしょう。

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