アーサー・ストリートン

アーサー・ストリートン（Sir Arthur Ernest Streeton、1867年 4月8日 - 1943年 9月1日）は、オーストラリアを代表する風景画家の一人です。特に1880年代後半から、メルボルン近郊のハイデルバーグに集まった芸術家たち、いわゆる「ハイデルバーグ派」の中心人物として活躍しました。彼の作品は、オーストラリアの強い日差しと広大な自然を、光あふれる筆致で捉えており、「オーストラリアの印象派」と呼ばれる美術運動を牽引した画家としても広く知られています。

ビクトリア州ジーロング郊外のマウント・デュニードで生まれたストリートンの両親は、1854年にイギリスからオーストラリアへの船旅の途上で出会い、結婚しました。家族は1874年にメルボルン近郊のリッチモンドに移り住み、若きストリートンはメルボルンのビクトリア国立美術館付属の美術学校で、画家G. F. フォリングスビーのもと絵画の基礎を学びます。この美術学校時代に、彼は後に生涯にわたる友人となり、共に「ハイデルバーグ派」を結成するフレデリック・マッカビンやトム・ロバーツと出会い、親交を深めました。また、当時のストリートンは、フランスの印象派画家たちが用いた光と色彩の表現技法や、イギリスの巨匠J.M.W. ターナーによる情感豊かな風景描写から強い影響を受けていたとされます。美術学校での学びと並行して、1885年にはヴィクトリア州の美術アカデミーの展覧会に作品を出品するなど、早くから画家としての道を歩み始めました。また、生活のため、メルボルンの版画家で美術商のチャールズ・トローデルのもとで働く経験もしています。

1885年から1886年にかけて、ストリートンはトム・ロバーツら仲間たちと共に、メルボルン郊外のボックスヒルで戸外制作を行いました。彼らは、当時のヨーロッパで盛んになりつつあった外光派の絵画表現を、オーストラリアの風景の中で実践しようとしていました。そして1888年夏、彼はスイス生まれの先達であり、オーストラリアで活躍した風景画家ルイ・ビュベロがかつて描いた風景を求めてハイデルバーグを訪れます。当時、ハイデルバーグは鉄道駅からやや離れており、比較的安価な空き家が多く存在していました。ストリートンは1889年にこの地に移り住み、フレデリック・マッカビン、チャールズ・コンダー、トム・ロバーツといった他の画家たちと共同で生活しながら集中的な制作活動を開始します。彼らは、ハイデルバーグ周辺の丘陵地帯やヤーラ川沿いの風景を、明るい光と鮮やかな色彩を用いて描きました。この彼らの共同活動の場こそが、オーストラリア美術史において画期的な出来事となる「ハイデルバーグ派」の活動拠点となり、この名称の由来ともなりました。ストリートンはここで多くの代表作を生み出し、その名声を確立していきます。1891年には活動の場を広げ、ニューサウスウェールズ州の海岸の町モスマンでも制作を行いました。

1897年、ストリートンは初めてヨーロッパへ渡航し、パリやイギリスの展覧会に作品を出品するなど、国際的な活動を展開します。イギリス滞在中に第一次世界大戦が勃発すると、彼は志願して従軍画家となり、1917年にはオーストラリア軍の公式戦争画家として、戦場の様子を描きました。この経験は彼の芸術に新たな一面をもたらしましたが、彼の本質はやはりオーストラリアの光あふれる風景にありました。

第一次世界大戦終結後の1919年、ストリートンはオーストラリアに帰国します。帰国後も精力的に風景画の制作を続け、同時に美術評論家としても活動し、オーストラリアの美術界の発展に貢献しました。彼は生涯を通じて、オーストラリアの多様な自然景観を愛し、その美しさをキャンバスに描き続けました。アーサー・ストリートンは、ハイデルバーグ派の主要メンバーとして、また「オーストラリアの印象派」の旗手として、オーストラリア美術史における風景画の発展に決定的な役割を果たした偉大な画家として、今も高く評価されています。

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