アーシラト

アーシラト：古代西アジアの女神

アーシラト（aṯrt [’āṯiratu]、アシェラトとも）は、古代西アジア、特にウガリット神話に登場する重要な女神です。シリアやパレスチナといった地域で広く崇拝され、「神々の女王」として知られていました。

概要

アーシラトは、ウガリット神話において最高神であるイルの妻とされ、神々の母として位置づけられています。彼女の名前「アーシラト」は「海を行く貴婦人（rbt aṯrt ym [rabbatu ’āṯiratu yamma]）」の略称であり、神話の中では実際に海辺に住んでいる様子が描かれています。また、「神々の生みの親（qnyt ilm [qāniyatu ’ilīma]）」という別名も持ちます。

イラト（ilt [’ilatu]）という呼び名も存在しますが、これは本来「イル」の女性形で、「女神」を意味する普通名詞です。しかし、アーシラトを指す場合は、女神の中の女神として固有名詞的に用いられます。このイラトという名前は、アラビアの女神アッラートとも語源を同じくするとされています。

アーシラトは、「官能的快楽の女主人」とも呼ばれ、そのエロティックな性格が暗示されています。この側面は、ヒッタイト語で残されているエルクニルシャ物語にも見られ、彼女の性的欲望が主要なテーマとなっています。

旧約聖書におけるアーシラト

アーシラトは、旧約聖書にも異教の偶像神として登場し、ヘブライ語形「アシェラ（אֲשֵׁרָה [’Ăšērāh]）」の名で現れます。カナン地方では豊穣の女神として崇められていました。ヘブライ人は当初この女神を敵視していましたが、カナンの地に入植すると、自身らもアシェラを崇拝し始め、聖なる高台と呼ばれる場所で祀りました。

ヘブライ人がアシェラを敵視した理由の一つとして、アシェラ祭儀が豊穣祈願を名目とした売春行為と結びついていたことが挙げられます。

神話におけるアーシラト

ケレト王がウドムの姫フルリヤとの結婚式で祝宴を開いた際、アーシラトは招待されませんでした。これを恨んだアーシラトは、フルリヤに対して自分への供物を要求します。それでも飽き足らず、ケレトを病気にし、彼の国土に飢饉をもたらしたとされています。

アーシラトは、森林地帯では枝を落としてまっすぐにした常緑樹を依代として祀られていました。これは、生命力の象徴としての常緑樹信仰に基づいています。また、木が生えない荒れ地などでは、代わりに杭を依代としていました。

アーシラトは、古代西アジアにおいて重要な役割を果たした女神であり、その信仰は様々な形で後世に影響を与えました。

関連項目

エール (神)
バアル
ウガリット
天の女王
* アスケラ (小惑星)

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