アーチリュート
アーチリュートは、17世紀から18世紀にかけてヨーロッパ、特にイタリアやイギリスで盛んに用いられた撥弦楽器です。リュートの仲間であり、主に通奏低音を担う楽器として、また独奏楽器としても重要な役割を果たしました。しばしば類似楽器であるテオルボと比較されますが、構造や調弦には明確な違いがあります。
アーチリュートの基本的な形状はテオルボと似ていますが、胴体の形状は通常のリュートに近い、背面の丸い洋梨形をしています。ネックは、指板を持つ通常のネック部分に加え、それよりも長い拡張ネックが取り付けられているのが特徴です。この楽器には「ストップ弦」と「拡張バス弦」の二種類の弦があります。
ストップ弦は、リュートやギターのように指板に指を押し当てて音程を変化させて演奏します。一方、拡張ネックに張られた拡張バス弦は、主に開放弦として使用されます。最も典型的なアーチリュートは14コース（弦の組）を持ちます。ストップ弦は第1コースを除いて複弦で張られることが多く、その弦長は60cmから68cm程度です。胴体はテオルボに比べて小さめですが、拡張バス弦に長い弦長（140cm程度まで）を与えるため、拡張ネックはテオルボと同程度の1メートル近い長さになることがあります。拡張弦は一般的に単弦で張られます。
14コースの楽器の場合、ストップ弦と拡張バス弦の組み合わせは、6コース＋8コースまたは7コース＋7コースが多いようです。
なお、数十センチと短い拡張ネックを持つ楽器は「リュート・アティオルバート」と呼ばれることがあります。リュート・アティオルバートでは、拡張バス弦長が90cm程度と短く、拡張バス弦もすべて複弦で張られることが多く、14コースでは弦の総数が27本にもなることがあります。
アーチリュートの調弦におけるテオルボとの大きな違いは、最も高音域を担当する第1コースと第2コースを1オクターブ下げることなく、ルネサンスリュートと同様に設定する点です。これは、アーチリュートがテオルボよりも高い音域の演奏に対応するために登場した経緯と関係しています。
ストップ弦長の長さは、特に高音域の弦が破断しないように、ある程度のピッチを確保するには70cmを超えられないという物理的な制約があります。このため、アーチリュートのストップ弦長はテオルボよりも短い約65cm程度となり、ボディーも大型化できません。
拡張バス弦は、第7コース以降、低音域の音階を作るように調弦されます。この点はテオルボと同様です。
17世紀半ばにガット芯に金属ワイヤーを巻いた巻き弦が発明されたことは、アーチリュートの普及を後押ししました。短い弦長でも、特に第5コースから第7コースにかけてのストップ弦で、輪郭がはっきりとしたクリアな音を出せるようになったためです。
アーチリュートの登場は、まずリュート・アティオルバートという形で現れたと考えられています。アレッサンドロ・ピッチニーニは1623年に出版したタブラチュア集で、1594年に自身が発明した拡張弦付きリュートがこの種の楽器の最初であると主張しました。彼の楽器は短い拡張ネックを持ち、独奏曲の可能性を広げる目的で開発されたことから、これはリュート・アティオルバートに相当するものと見られています。
ピッチニーニ自身はこれを「arciliuto（大きいリュート）」と呼びましたが、「リュート・アティオルバート（テオルボ化されたリュート）」という名称が17世紀前半にはより一般的に使われました。この時期のイタリアでは、単に「リュート」と言った場合でも、拡張弦付きの楽器（リュート・アティオルバート）を指す習慣があったとされ、ピッチニーニのリュート作品集も、この種の14コースの楽器でなければ演奏できません。
「アーチリュート」という名称が広く用いられるようになるのは1680年頃からです。この時期のアーチリュートは、長い拡張弦を持ち、テオルボに代わる通奏低音楽器として普及しました。これは、17世紀後半に作曲される音楽において、通奏低音パートがより高音域に進出するようになったことと関係があります。テオルボでは高音部の弦を1オクターブ下げて調弦するため、このような高音域のバス音に対して適切な和音を付けることが難しかったのです。前述の巻き弦の発明も、アーチリュートがテオルボを置き換える要因となりました。
多くのバロック作曲家がアーチリュートを通奏低音楽器として指定しています。例えば、アルカンジェロ・コレッリのトリオソナタ作品では「ヴィオローネまたはアーチリュート」のためのパートが見られます。また、ジョヴァンニ・バッティスタ・ボノンチーニ、アレッサンドロ・スカルラッティ、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルなどのオペラやオラトリオにも、アーチリュートのパートやソロが登場します。特にイタリア風バロックオペラが人気だったイギリスでは、アーチリュートが広く普及したようです。
ただし、アーチリュートを1680年以降の楽器とする見方には異論もあり、長い拡張弦を持つ楽器自体は17世紀初頭から既に存在していた可能性も指摘されています。
アーチリュートの主要なレパートリーは、バロック中後期作品における通奏低音です。歴史的にもこの役割で広く用いられていました。また、17世紀前半にはリュート・アティオルバートのために多くのソロ作品が書かれましたが、アーチリュートと同じ調弦を持つため、これらの作品もアーチリュートで演奏することが可能です。ソロ作品を残した作曲家としては、アレッサンドロ・ピッチニーニ、ピエトロ・パオロ・メリイ、ジョバンニ・ザンボーニなどが挙げられます。
構造
アーチリュートの基本的な形状はテオルボと似ていますが、胴体の形状は通常のリュートに近い、背面の丸い洋梨形をしています。ネックは、指板を持つ通常のネック部分に加え、それよりも長い拡張ネックが取り付けられているのが特徴です。この楽器には「ストップ弦」と「拡張バス弦」の二種類の弦があります。
ストップ弦は、リュートやギターのように指板に指を押し当てて音程を変化させて演奏します。一方、拡張ネックに張られた拡張バス弦は、主に開放弦として使用されます。最も典型的なアーチリュートは14コース（弦の組）を持ちます。ストップ弦は第1コースを除いて複弦で張られることが多く、その弦長は60cmから68cm程度です。胴体はテオルボに比べて小さめですが、拡張バス弦に長い弦長（140cm程度まで）を与えるため、拡張ネックはテオルボと同程度の1メートル近い長さになることがあります。拡張弦は一般的に単弦で張られます。
14コースの楽器の場合、ストップ弦と拡張バス弦の組み合わせは、6コース＋8コースまたは7コース＋7コースが多いようです。
なお、数十センチと短い拡張ネックを持つ楽器は「リュート・アティオルバート」と呼ばれることがあります。リュート・アティオルバートでは、拡張バス弦長が90cm程度と短く、拡張バス弦もすべて複弦で張られることが多く、14コースでは弦の総数が27本にもなることがあります。
調弦
アーチリュートの調弦におけるテオルボとの大きな違いは、最も高音域を担当する第1コースと第2コースを1オクターブ下げることなく、ルネサンスリュートと同様に設定する点です。これは、アーチリュートがテオルボよりも高い音域の演奏に対応するために登場した経緯と関係しています。
ストップ弦長の長さは、特に高音域の弦が破断しないように、ある程度のピッチを確保するには70cmを超えられないという物理的な制約があります。このため、アーチリュートのストップ弦長はテオルボよりも短い約65cm程度となり、ボディーも大型化できません。
拡張バス弦は、第7コース以降、低音域の音階を作るように調弦されます。この点はテオルボと同様です。
17世紀半ばにガット芯に金属ワイヤーを巻いた巻き弦が発明されたことは、アーチリュートの普及を後押ししました。短い弦長でも、特に第5コースから第7コースにかけてのストップ弦で、輪郭がはっきりとしたクリアな音を出せるようになったためです。
歴史
アーチリュートの登場は、まずリュート・アティオルバートという形で現れたと考えられています。アレッサンドロ・ピッチニーニは1623年に出版したタブラチュア集で、1594年に自身が発明した拡張弦付きリュートがこの種の楽器の最初であると主張しました。彼の楽器は短い拡張ネックを持ち、独奏曲の可能性を広げる目的で開発されたことから、これはリュート・アティオルバートに相当するものと見られています。
ピッチニーニ自身はこれを「arciliuto（大きいリュート）」と呼びましたが、「リュート・アティオルバート（テオルボ化されたリュート）」という名称が17世紀前半にはより一般的に使われました。この時期のイタリアでは、単に「リュート」と言った場合でも、拡張弦付きの楽器（リュート・アティオルバート）を指す習慣があったとされ、ピッチニーニのリュート作品集も、この種の14コースの楽器でなければ演奏できません。
「アーチリュート」という名称が広く用いられるようになるのは1680年頃からです。この時期のアーチリュートは、長い拡張弦を持ち、テオルボに代わる通奏低音楽器として普及しました。これは、17世紀後半に作曲される音楽において、通奏低音パートがより高音域に進出するようになったことと関係があります。テオルボでは高音部の弦を1オクターブ下げて調弦するため、このような高音域のバス音に対して適切な和音を付けることが難しかったのです。前述の巻き弦の発明も、アーチリュートがテオルボを置き換える要因となりました。
多くのバロック作曲家がアーチリュートを通奏低音楽器として指定しています。例えば、アルカンジェロ・コレッリのトリオソナタ作品では「ヴィオローネまたはアーチリュート」のためのパートが見られます。また、ジョヴァンニ・バッティスタ・ボノンチーニ、アレッサンドロ・スカルラッティ、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルなどのオペラやオラトリオにも、アーチリュートのパートやソロが登場します。特にイタリア風バロックオペラが人気だったイギリスでは、アーチリュートが広く普及したようです。
ただし、アーチリュートを1680年以降の楽器とする見方には異論もあり、長い拡張弦を持つ楽器自体は17世紀初頭から既に存在していた可能性も指摘されています。
レパートリー
アーチリュートの主要なレパートリーは、バロック中後期作品における通奏低音です。歴史的にもこの役割で広く用いられていました。また、17世紀前半にはリュート・アティオルバートのために多くのソロ作品が書かれましたが、アーチリュートと同じ調弦を持つため、これらの作品もアーチリュートで演奏することが可能です。ソロ作品を残した作曲家としては、アレッサンドロ・ピッチニーニ、ピエトロ・パオロ・メリイ、ジョバンニ・ザンボーニなどが挙げられます。
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