テオルボ

テオルボ（Theorbo）とは

テオルボは、リュート族に属する撥弦楽器で、16世紀末にイタリアで生まれました。バロック時代には、通奏低音を担当する楽器として、またソロ楽器としても広く用いられました。フランス語では「théorbe」、イタリア語では「tiorba」と表記されます。キタローネ（chitarrone）と呼ばれる類似の楽器も存在します。

構造

テオルボは、現代の楽器のように標準化された仕様を持っていません。そのため、様々な大きさや形状のオリジナル楽器が存在します。一般的な特徴としては、以下の点が挙げられます。

胴体（ボディ）: リュートと同様に、洋梨を半分に割ったような丸い形状をしています。ただし、通常のリュートよりも大きいのが特徴です。
ネック: 長いネックが胴体に取り付けられています。ネックの長さは約1メートル前後のものが多いです。
拡張ネック: 指板のあるネック部分に、さらに長いネック（拡張ネック）が取り付けられています。
弦: 通常は単弦（1コース1弦）です。ルネサンス・リュートなどとは異なります。
ストップ弦と拡張バス弦: 指板のあるネック部分に取り付けられた弦を「ストップ弦」、拡張ネックに取り付けられた弦を「拡張バス弦」と呼びます。ストップ弦は指で押さえて音程を変えられますが、拡張バス弦は開放弦のまま使用します。
弦の長さ: ストップ弦は約70〜90cm、拡張バス弦は約150〜170cmであることが多いです。
コース数: 14コース（14弦）の楽器が最も一般的です。弦の配置は様々ですが、（ストップ弦）+（拡張バス弦）が6+8、7+7のものが多いです。

調弦法は歴史的に様々ですが、一般的には1コースがAから始まる調弦が用いられます。

歴史と名称

テオルボとキタローネは、その出現の歴史において密接な関係があります。キタローネは、1580年頃にフィレンツェのカメラータで用いられ始めたと考えられています。ジュリオ・カッチーニは、著書「新音楽」の中で、キタローネがテノールの歌の伴奏に最適であると述べています。

カメラータのキタローネがどのような楽器であったかは、正確には分かっていません。アレッサンドロ・ピッチニーニは、1623年に拡張バスを自身が発明したと主張しています。

1600年から1610年頃には、拡張バス付きの楽器がイタリアで急速に広まりました。エミリオ・デ・カヴァリエーリの1600年の作品には、「キタローネまたはテオルボ」が用いられたという記録があります。

17世紀前半には、拡張バス付きのキタローネが通奏低音楽器として広く用いられ、キタローネ用のタブラチュア譜も多く出版されました。1600年の時点で「tiorba」（テオルボ）という名称も使用されていましたが、キタローネとの違いは明確ではありません。

フランスやイギリスでテオルボが本格的に用いられるようになったのは17世紀後半です。フランスではマザラン卿によるイタリア音楽の輸入、イギリスではイタリア風オペラの伝播が背景にあります。フランスではリュートが衰退した後も、テオルボは通奏低音楽器として長く生き残りました。バロック期のドイツでもテオルボは用いられ、「ジャーマン・テオルボ」と呼ばれる楽器はバロック・リュートの一種と見なされることもあります。

17世紀末には、テオルボの役割は徐々にアーチリュートに置き換えられていきました。これは、通奏低音パートが高音域を使用する作曲法が主流になったためと考えられています。しかし、テオルボはバロック最末期まで通奏低音楽器として用いられ続けました。

テオルボとアーチリュートを区別する明確な基準はなく、様々なタイプの拡張バス付きリュート族楽器が存在していました。楽器の仕様による区別よりも、調弦や音楽への使用法による区別と見なすこともできます。

レパートリー

テオルボ（キタローネ）は、主に通奏低音楽器として用いられました。モノディー歌曲、ヴェネツィア風オペラ、フランスのバロック音楽などで、テオルボは重要な役割を果たしました。また、一部の演奏家は、テオルボのためのソロレパートリーも残しています。

主な作曲家:

ジョヴァンニ・ジローラモ・カプスペルガー
アレッサンドロ・ピッチニーニ
ピエトロ・パオロ・メリイ
* ロベール・ド・ヴィゼー

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