アードベッグ蒸留所

アードベッグ蒸留所：アイラモルトを代表する、ピーティーなウイスキー

アードベッグ蒸留所は、スコットランドのアイラ島にあるシングルモルトウイスキーの蒸留所です。その特徴は、アイラモルトの中でも特に強烈なピート香。一度味わうと忘れられない個性的な風味は、世界中のウイスキーファンを虜にし、「アードベギャン」と呼ばれる熱狂的なファンを生み出しています。

歴史

創業期

アードベッグ蒸留所周辺は、18世紀末から密造酒づくりが盛んな地域でした。1794年以前には、アレキサンダー・スチュアートが蒸留所を運営していた記録が残っています。1815年、ダンカン・マクドゥーガルの息子であるジョン・マクドゥーガルが、正式なライセンスを取得し蒸留所を設立。良質な港を備えていることが、この地が選ばれた理由の一つでした。1885年には、アードベッグはアイラ島最大の蒸留所となり、年間生産量は120万リットルに達しました。これは2016年当時の生産量とほぼ同じであり、当時からブレンデッドウイスキーの原酒として高い人気を誇っていたことを示しています。

アードベッグの名前は、ゲール語で「小さな岬」を意味する「An Àird Bheag」に由来します。

不遇の時代

1973年、アードベッグはカナダのハイラム・ウォーカー社とディスティラーズ・カンパニー・リミテッド（DCL）に買収され、1977年にはハイラム・ウォーカー社の単独所有となります。1815年の創業から150年以上続いたマクドゥーガル家の経営は、ここで幕を閉じました。ハイラム・ウォーカー社は1987年にアライド・ライオンズ社と合併し、1988年にアライド・ディスティラーズ社が発足しました。

かつてアイラ島最大の蒸留所として栄えたアードベッグでしたが、1981年にはウイスキー不況の影響を受け、生産を一時停止。1989年にアライド社のもとで生産を再開したものの、同社はすでにラフロイグ蒸溜所も所有しており、ピート香の強いウイスキーの供給過多を避けるため、1990年代は年間わずか数ヶ月の操業に留まりました。そして1995年、再び操業を停止することになります。

グレンモーレンジィ社による買収と復活

老朽化が進んだアードベッグは、1997年にグレンモーレンジィ社によって買収され、再び息を吹き返します。買収額は700万ポンドで、そのうち550万ポンドは熟成中の原酒の代金でした。その後、グレンモーレンジィ社は2004年にモエヘネシー・ルイヴィトン（LVMH）に買収されています。

グレンモーレンジィ社の傘下に入ったアードベッグは、シングルモルトウイスキー専門の蒸溜所として再建が進められ、シングルモルトとしての人気を確立。需要の増加に対応するため、2018年には生産能力を倍増させる工事を開始し、2021年4月には新たな蒸留棟が完成しました。

製造

年間生産能力は240万リットル。生産された原酒はすべて自社のシングルモルトとしてボトリングされ、他社への原酒の供給は一切行っていません。アイラモルトとしてはラフロイグ、ボウモアに次ぐ第3位の売上を誇り、2021年のシングルモルト販売本数は180万本を記録しました。

麦芽

1975年にキルン（製麦棟）が閉鎖されて以来、アードベッグでは製麦を行っていません。かつては麦芽の乾燥にピートのみを使用し、換気装置がないキルンを使用していたため、極端に強いピート香が特徴でした。これがブレンダーに敬遠されたことが、製麦を廃止した理由の一つとされています。

現在は、ポートエレン蒸留所製の麦芽のみを使用。麦芽のピート香の強さを示すフェノール値は55～65ppmと、ブルックラディ蒸溜所の「オクトモア」シリーズを除けば、アイラ島の蒸留所の中でも最も高い数値です。

仕込み・発酵

仕込み水には、ウーガダール湖の水を使用。この水に含まれるピートの成分が、アードベッグ特有の土やタールを思わせる風味に影響を与えていると言われています。

ステンレス製のマッシュタン（糖化槽）を使用し、1回の仕込みで26,500リットルの麦汁を得ています。ウォッシュバック（発酵槽）はオレゴンパイン製で、12基あります。発酵にはアンカー社のドライイーストを使用し、65時間以上の時間をかけて、アルコール度数約8.2%のもろみを造り出します。

蒸留

アードベッグのポットスチルは、背の高いランタンヘッド型で、初留器・再留器それぞれ2基ずつ、合計4基あります。再留器のラインアームには「精留器」が取り付けられており、還流を促進することで、フルーティな味わいを生み出しています。

熟成・ボトリング

熟成には、アメリカンオークのファーストフィルまたはセカンドフィルのバーボン樽が9割を占めます。スモーク香を高めたい場合はアルコール度数63.5%以上で、フルーティな風味を強調したい場合は63.5%以下で樽詰めされます。熟成庫はダンネージ式とラック式を併用しています。

熟成後の原酒の樽出しは蒸留所内で行われ、ボトリングはウェスト・ロージアンにあるグレンモーレンジィ社のボトリング工場で行われます。ボトリング時に低温濾過は行われません。

製品

アードベッグで生産された原酒はすべて自社のシングルモルトとしてボトリングされており、他社への原酒供給は一切ありません。アライド社時代には、ブレンデッドウイスキーであるバランタインの味わいを構成する「魔法の7柱」の一つとされていました。

現行ラインナップ

アードベッグ 10年
アードベッグ 5年 ウィー・ビースティー
アードベッグ ウーガダール
アードベッグ コリーヴレッカン

主な限定品

* アードベッグ ガリレオ

評価

アードベッグの熱心なファンは「アードベギャン」と呼ばれ、その人気は「世界中でカルト的人気を誇る」と評されています。また、ファン組織である「アードベッグコミッティー」には、世界中で15万人以上が登録しています。

風味

アードベッグのハウススタイルは「土っぽい、非常にピーティ、スモーキー、塩っぽい、こくがある」と評され、その味わいは「非常にピート香が強いが、スモークの下に繊細さが存在している」と表現されます。近年では、その人気はますます高まっています。

受賞

アードベッグは、数々のウイスキーコンテストで高い評価を受けており、数多くの賞を受賞しています。

アードベッグは、強烈な個性と奥深い味わいで、これからも世界中のウイスキーファンを魅了し続けるでしょう。

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