ポートエレン蒸留所

ポートエレン蒸留所：伝説のアイラモルト、その復活

ポートエレン蒸留所は、スコットランドのアイラ島に位置する、かつて存在したスコッチウイスキーの蒸留所です。1825年に設立され、1983年に閉鎖されましたが、その短い歴史の中で、強烈な個性を持つウイスキーを生み出し、熱狂的なファンを獲得しました。

歴史

1825年、A.K. Mackay&Co.によって設立されたポートエレン蒸留所は、アイラ島の港町であるポートエレンにその名を冠しています。ポートエレンという地名は、当時のアイラ島の領主フレデリック・キャンベルの妻、エレノアに由来します。設立翌年に経営母体は解散しますが、アレクサンダー・マッカイが事業を引き継ぎます。その後、1836年にジョン・ラムゼイに経営が移り、1920年までラムゼイ家による経営が続きました。1920年にPort Ellen Distillery Co. Ltdの経営となり、1927年にはディスティラーズ・カンパニー（現在のディアジオ）の傘下となりました。しかし、世界恐慌とアメリカの禁酒法の影響を受け、1930年に蒸留所は閉鎖されます。一説には、当時の人々の嗜好が、ピート香の強いアイラモルトから、より穏やかなスペイサイドモルトへと変化したことも閉鎖の理由として挙げられています。閉鎖中も、製麦施設と熟成庫は稼働していました。

1967年には、ポットスチルを2基から4基に増設し、生産を再開しましたが、1970年代のウイスキー需要の低迷により、1983年に再び閉鎖されました。その稼働期間はわずか16年でした。

1973年には、ディアジオ傘下の蒸留所に麦芽を供給するために、大型のドラム式製麦器が導入されました。蒸留設備の多くは取り壊され、以降はモルトスター（製麦業者）として、アイラ島の複数の蒸留所に麦芽を供給する役割を担いました。1983年に蒸留所としては完全に閉鎖され、1992年にはウイスキーの製造免許も失効しました。

しかし、ポートエレンのウイスキーは、閉鎖後からその希少価値が高まり、幻のウイスキーとして、世界中のコレクターや愛好家から探し求められる存在となりました。

2017年10月、ディアジオは3,500万ポンドを投資し、ポートエレンと、同じく1983年に閉鎖されたブローラ蒸留所を2020年に再開する計画を発表しました。2019年5月には、蒸留所の復興計画が公表され、新しいポットスチルハウスの建設が発表されました。ディアジオによれば、新しいスチルは、当時の記録とアイラ島の別の事業所に移っていた従業員の協力を得て、可能な限り当時のものを忠実に再現しているとのことです。蒸溜所の建設は、キルホーマン蒸溜所、ラガヴーリン蒸留所、カリラ蒸留所で役職を歴任したアイラ島在住のアレクサンダー・マクドナルドの指揮で行われました。そして2024年 3月29日、閉鎖から40年の時を経て、ポートエレン蒸留所はついにリニューアルオープンを果たしました。再開には1億8,500万ポンドが費やされました。

製麦設備

ポートエレンモルティングスの製麦設備は、1973年導入のドラム式製麦器が7基あります。一度の製麦でおよそ50トンを仕込み、年間でおよそ2万7000トンの麦芽を製造します。ドラム式製麦器で大麦を発芽させた後、キルンへと移動し、ピートを焚くことでピーテッド麦芽を作ります。設備の都合上、ポートエレン麦芽のフェノール値の最大値は65ppmです。

製品

閉鎖後は、2000年から2017年にかけて、ディアジオの「スペシャルリリース」シリーズとして毎年限定発売されてきました。これらのボトルは、いずれも高額で取引され、市場に出回ることは稀です。2020年には、1979年蒸留の40年熟成ボトルが発売され、その価格は1万ポンドを超えました。

2022年には、希少な1979年樽ウイスキーがサザビーズによってオークションにかけられ、875,000ポンドで落札されました。このウイスキーは、イニ・アーキボンとのコラボレーションによって、ムラーノのガラスを使用した一点ものの彫刻作品として展示されました。落札価格の5%は、国際ケア機構のウクライナでの活動に寄付されました。

評価

ウイスキー評論家の土屋守は、ポートエレンを「カルト的人気を誇るアイラの幻のウイスキー」と評しています。また、「ヘブリディーズの女王」と称され、特に1979年ヴィンテージの原酒は高い評価を得ています。

評論家のマイケル・ジャクソンは、ポートエレンのハウススタイルを「オイリー、胡椒のよう、塩っぽい、スモーキー、ハーブのよう。魚の燻製を食べながら」と評しています。土屋守は、ポートエレンの味わいを「ドライでピーティで、刺すような独特の風味」と評しています。

長らく閉鎖されていたにも関わらず、その名はウイスキー愛好家の間で語り継がれ、伝説的な存在となっていたポートエレン蒸留所。2024年の再開により、再びその個性的なウイスキーが世に送り出されることが期待されています。

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