アーノルド・バックス

アーノルド・バックス：20世紀イギリス音楽の巨匠とその複雑な生涯

アーノルド・バックス(1883-1953)は、20世紀イギリスを代表する作曲家の一人です。豊かな家庭に生まれ、経済的な苦労なく音楽の道を歩んだ彼は、独自の作風を確立しましたが、生前は評価にムラがあり、死後はしばらく忘れられた存在となりました。しかし、近年になって商業録音の増加などを背景に再評価が進み、その独特の音楽世界が改めて注目を集めています。

裕福な家庭と音楽への目覚め

ロンドン郊外の裕福な家庭に生まれたバックスは、幼い頃から音楽に才能を示し、ピアノを独学で習得しました。優れた音楽的才能は早くから周囲に認められ、彼の音楽のキャリアは両親の後押しによって順風満帆に進んでいきます。しかし、その恵まれた環境は、同時に彼を楽壇の主流からやや孤立した存在とする要因にもなりました。彼は流行や世間の評価にとらわれず、自分の音楽を追求することを優先したのです。

ケルトと北欧、そしてロシアからの影響

王立音楽アカデミー在学中、バックスはアイルランドとケルト文化に魅せられます。アイルランド滞在中には、小説や詩を執筆するなど、文筆活動にも携わりました。その後、北欧文化にも傾倒し、彼の音楽にはケルトや北欧の神秘的な要素が色濃く反映されるようになります。さらに、ロシアへの旅行で出会ったロシア音楽は、彼の作品に新たなインスピレーションを与えました。

主要作品と音楽的特徴

バックスの最も有名な作品は交響詩『ティンタジェル』です。他にも、7曲の交響曲、多くの交響詩、室内楽曲、ピアノ作品、歌曲などを残しています。彼の音楽は、ワーグナーやリヒャルト・シュトラウスの影響を受けつつも、ケルトや北欧の民族音楽、そしてロシア音楽の要素を取り入れた独特の様式を特徴としています。初期の作品は複雑で難解な部分もありますが、晩年の作品はより簡潔で明瞭な表現へと向かっています。オーケストレーションは華麗で、多くの作品は、大規模なオーケストラを必要とするほどの壮大な規模です。

複雑な人間関係と晩年

バックスは複雑な人間関係も持っていました。妻と結婚しながらも、長年にわたって複数の女性との交際を続けました。中でもハリエット・コーエンとの関係は長く続き、彼は彼女に多くの作品を献呈しています。晩年は、自分の音楽が時代遅れになっていることを自覚しつつも、創作活動を続けました。1942年には国王の音楽師範に任命されましたが、この立場での作曲活動は比較的少なかったようです。1953年、心臓発作のため急死しました。

没後、そして再評価

バックスの死後、彼の音楽は長い間忘れられていましたが、1960年代以降、商業用録音の増加に伴い、徐々に再評価されるようになりました。現在では、彼の作品は世界中で演奏され、録音も数多く残されています。しかし、それでもなお、定期的に演奏される作品は限られています。彼の音楽は、現代においても、独特の美しさ、複雑さ、そして深みで聴く人を魅了し続けています。

まとめ

アーノルド・バックスは、複雑な人生を送った稀代の作曲家でした。経済的な豊かさ、豊かな才能、そして複雑な人間関係の中で、彼は独自の音楽世界を構築しました。彼の音楽は、時代を超えて、人々の心を捉え続けるでしょう。その作品群は、今後の研究と演奏によって、さらに深く理解されていくものと期待されます。 彼の音楽は、現在もなお、再発見と再評価の途上にあります。

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