国王の音楽師範

国王の音楽師範 (Master of the King's Music)

「国王の音楽師範」（Master of the King's Music）は、英国王室に仕える特別な音楽関連の役職の一つです。現在の君主が女王である場合は、「女王の音楽師範」（Master of the Queen's Music）として称されます。この称号は、英国を代表するクラシック音楽の作曲家に対して贈られる名誉あるポストであり、文学分野における「桂冠詩人」の地位とおおむね同等と見なされています。

この役職に就任した作曲家には、明確に定められた職務規定があるわけではありませんが、慣例として、王室にとって節目となる重要な出来事や国家的な儀式のために音楽を作曲することが期待されています。具体的には、戴冠式、国王または女王の誕生日、王室の結婚式や葬儀、記念祭などに際して、それにふさわしい楽曲を制作することが求められます。

国王の音楽師範の歴史は、1626年にチャールズ1世の治世下で始まりました。設立当初の正式な綴りは「Master of the King's Musick」であり、この古風な綴りは、後任の一人であるマルコム・ウィリアムソン氏が任命されるまで用いられました。初代の音楽師範に任命されたのは、作曲家であり音楽家であったニコラス・ラニエー氏でした。設立当初、この役職は王室のプライベートな楽団を統括・管理するという重要な職務も担っており、この楽団が解散する1901年までその職務は、後任の音楽師範たちに引き継がれました。

長きにわたり、国王/女王の音楽師範は終身でその任を務めるのが通例でした。しかし、2004年3月にエリザベス2世女王の音楽師範に任命された著名な作曲家サー・ピーター・マックスウェル・デイヴィス氏からは、任期が10年間と定められる新たな制度が導入されました。これにより、より多くの作曲家がこの名誉ある役職に就く機会が生まれる可能性が開かれました。

これまでに国王の音楽師範、または女王の音楽師範を務めた人物は以下の通りです。

ニコラス・ラニエー（1625年 - 1649年、1660年 - 1666年）
ルイス・グラビュ（1666年 - 1674年）
Nicholas Staggins（1674年 - 1700年）
ジョン・エックルス（1700年 - 1735年）
モーリス・グリーン（1735年 - 1755年）
ウィリアム・ボイス（1755年 - 1779年）
ジョン・スタンリー（1779年 - 1786年）
ウィリアム・パーソンズ（1786年 - 1817年）
ウィリアム・シールド（1817年 - 1829年）
クリスチャン・クレイマー（1829年 - 1834年）
フランツ・クラーマー（1834年 - 1848年）
ジョージ・フレデリック・アンダーソン（1848年 - 1870年）
Sir William George Cusins（1870年 - 1893年）
サー・ウォルター・パラット教授（1893年 - 1924年）
サー・エドワード・エルガー准男爵（1924年 - 1934年）
サー・ウォルフォード・デーヴィス（1934年 - 1941年）
サー・アーノルド・バックス（1942年 - 1952年）
サー・アーサー・ブリス（1953年 - 1975年）
マルコム・ウィリアムソン（1975年 - 2003年）
サー・ピーター・マックスウェル・デイヴィス（2004年 - 2014年）
* ジュディス・ウィアー

この役職は、英国の音楽史において重要な役割を果たし、歴代の就任者たちはそれぞれの時代の音楽様式で王室行事を彩る楽曲を生み出してきました。現在も、英国の文化的・歴史的な伝統を継承しつつ、現代の音楽を通じて王室と国民を結びつける存在として重要視されています。

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