アームストロング・シドレー ASX

ASXエンジンの概要

ASXはアームストロング・シドレー社によって1943年4月に初めて運転された、非常に特異な構造を持つ初期の軸流圧縮式ターボジェットエンジンです。このエンジンについての詳細な情報は限られており、量産には至りませんでしたが、その設計は航空機エンジニアリングの革新を象徴しています。後にターボプロップバージョンであるASPが商業的に成功し、ウェストランド ワイバーンに搭載されたアームストロング・シドレー パイソンの原型となりました。

設計と開発

ASXの設計は非常にユニークで、14段からなる圧縮機をエンジンの中央部に配置し、吸気口を通過した空気が前方に流れ圧縮されます。圧縮された空気は、外側に配置された11基の燃焼器で燃焼し、最終的にはタービンを駆動する流れに戻ります。この新しい配置により、エンジンの全長を短縮することが目指されましたが、実際の短縮は限られており、圧縮機のメンテナンスは難易度が高くなりました。特に、近代的なエンジン設計では、高温部のメンテナンスが最も重要とされます。

ASXの飛行試験は、改造されたアブロ・ランカスターND784の爆弾槽に固定され、1945年9月28日に実施されました。この試験では、エンジンは最大回転数8,000 rpmで2,600 lbf（約12 kN）の推力を発揮しました。一方、巡航運転時の回転数は7,500 rpmで、推力は2,050 lbf（約9.1 kN）でした。エンジンの重量は1,900 lb（約865 kg）です。ターボプロップ仕様であるASPは、ギアボックスを介してプロペラを駆動し、出力は3,600 shpとなりました。ジェット推力は1,100 lbf（約4.9 kN）でした。

残念ながら、ASXはごく少数のみが生産され、戦後にアームストロング・シドレーはメトロヴィック F.9サファイヤの設計に移行しました。これにより、ASXの存在は短命に終わりましたが、その技術的アプローチは後世に影響を与えました。

仕様

ASXエンジンの主な仕様は以下の通りです。

• - 形式: 軸流式ターボジェット
• - 全長: 167インチ（約4,241.8 mm）
• - 直径: 42インチ（約1,066.8 mm）
• - 乾燥重量: 1,900 lb（約861.8 kg）

構成要素

• - 圧縮機: 14段軸流式反転流圧縮機
• - 燃焼器: 鋼製カン型燃焼器11基を圧縮機周囲に配置
• - タービン: 2段軸流式
• - 使用燃料: ケロシン（R.D.E./F/KER）
• - 潤滑システム: 加圧供給のドライサンプ方式

性能

• - 推力: 海面高度での8,000 rpmにおける推力は2,600 lbf（11.57 kN）
• - 全圧縮比: 5:1
• - タービン入口温度: 1,220 °F（660 °C）
• - 燃料消費率: 1.03 lb/lbf/hr（約104.98 kg/kN/hr）
• - 推力重量比: 1.37 lbf/lb（約0.0134 kN/kg）
• - 静止推力: 海面高度での8,000 rpmによる戦闘時における推力は26,000 lbf（約115.65 kN）

このように、ASXは短期間であったにも関わらず、その独自の設計と性能により、多くの航空機ファンやエンジニアに記憶されています。

もう一度検索