アーロン・ローザンド

アーロン・ローザンド（Aaron Rosand, 1927年3月15日 - 2019年7月9日）は、アメリカ合衆国出身の卓越したヴァイオリニストであり、教育者としてもその名を広く知られています。

生い立ちと音楽への目覚め

インディアナ州ハモンドで生まれたローザンドは、ポーランドとロシアからの移民を両親に持ち、幼少の頃から音楽に囲まれた環境で育ちました。父親は歌手、母親はピアニストという音楽一家の中で、3歳にしてベビーシッターの歌を正確に歌いこなすなど、その音楽的才能を早くから開花させます。その後、シカゴに移り住んだローザンドは、両親の指導のもと本格的な音楽教育を受け始めました。

若き日の活躍と研鑽

9歳でジャン・ピアースのコンサートに賛助出演したことがきっかけとなり、10歳という若さでフレデリック・ストック指揮のシカゴ交響楽団とメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を共演し、音楽界に衝撃を与えました。1940年からはシカゴ音楽大学でレオン・サメティーニに師事し、技術と音楽性を磨きました。1944年にはカーティス音楽院に転学し、エフレム・ジンバリストの指導を受け、さらなる飛躍を遂げました。1948年にニューヨークでデビューを飾り、1958年にはカーネギー・ホールで初のリサイタルを開催、1960年にはレナード・バーンスタイン指揮のニューヨーク・フィルハーモニックとの共演を果たし、その実力を世界に示しました。

教育者としての貢献

演奏活動の傍ら、ローザンドは教育者としても精力的に活動しました。1981年からは母校であるカーティス音楽院で教鞭を執り始め、1986年からはマネス音楽学校でも指導にあたりました。また、ザルツブルクやニースなどの夏期講習の講師や、世界各地の国際コンクールの審査員としても数多く招聘され、後進の育成に尽力しました。

愛器「エクス・コハンスキ」と引退

1950年代から、1741年製のグァルネリ・デル・ジェス「エクス・コハンスキ」を愛用していたことでも知られています。この名器は、ローザンドの演奏活動を支え続けた重要な存在でした。2009年、77年間に及ぶ演奏活動に終止符を打った際、このヴァイオリンを1000万ドルでロシアの富豪に売却し、そのうち150万ドルを母校のカーティス音楽院に寄付するという、後世への貢献も忘れませんでした。

晩年と遺産

2019年5月、教職からの引退を発表し、カーティス音楽院から名誉博士号を授与されました。しかし、そのわずか2ヶ月後の7月9日、肺炎によりニューヨーク州で92歳でその生涯を閉じました。ローザンドの門下からは、アレクサンダー・カー、ベンジャミン・ボウマン、レイ・チェン、ユーチン・ツェン、リチャード・リン、スティーブン・ワ―ツ、ジェシカ・リンネバック、吉田恭子など、数多くの著名なヴァイオリニストが輩出されており、彼の音楽への情熱と教育への貢献は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

主要ディスコグラフィ

ローザンドは、数多くの録音も残しており、その演奏は現在でも聴くことができます。以下に主要なディスコグラフィを記します。

Rosand, Aaron; Flissler, Eileen; Beethoven, Ludwig van (1971). Violin sonatas (complete). New York: Vox.
Rosand, Aaron; Froment, Louis de; Hubay, Jeno (1972). Concerto for violin and orchestra, op. 99. Candide.
Rosand, Aaron; Froment, Louis de; Arensky, Anton (1973). Violin concerto in A minor, op. 54. Turnabaut.
Rosand, Aaron; Reinhardt, Rolf (1975). Berlioz : reverie & caprice, op. 8 / chausson poeme, op. 25 / saint-saens : havanaise, op. 83. New York: Vox.
* Rosand, Aaron; Szoke, Tibor (1975). Rosand plays Sibelius, Sarasate and Tchaikovsky. New York: Vox.

ローザンドの音楽は、彼の卓越した技術と深い音楽性、そして教育者としての情熱によって、世代を超えて愛され続けています。

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