イアンボス

イアンボス（iambus）とは

イアンボス（古代ギリシア語: ἴαμβος / iambos）は、西洋古典詩における基本的な韻律の一つです。語源は不明とされています。日本語では短長格とも呼ばれ、短い音節の後に長い音節が続くリズムパターンを基本とします。通常、この短長のリズムが2回繰り返された形（短長・短長）を一単位として扱います。

近代西洋詩では、音節の長短ではなく、アクセントの強弱でこのリズムを表現するようになりました。具体的には、弱いアクセントの音節の後に強いアクセントの音節が続くパターン（弱強格、抑揚格）として用いられます。英語では、iamb, iambic, iambusといった言葉で表現されます。

イアンボスの種類

イアンボスには、行を構成する単位（脚）の数によって、いくつかの種類があります。

三歩格（trimeter）

古代ギリシアのイアンボス・トリメトロスは、ギリシア悲劇や喜劇の会話部分で基本となる韻律です。この形式は、「x - u -」という単位を3回繰り返します。ここで、「x」は長短どちらでも良い音節（アンケプス）、「-」は長音、「u」は短音を意味します。具体的には、「x - u - | x - u - | x - u -」という形になります。

例えば、ギリシア悲劇において、以下の様な例があります。

後者では、イアンボスの代わりに3つの短音節が使われることもあります。

一方、英語詩における弱強三歩格は、3つの弱強格で1行を構成します。ウィリアム・ブレイクの詩『I Love the Jocund Dance』では、以下のように表現されています。


I love the joc-und dance

（太字が強いアクセントを示す）

四歩格（tetrameter）

弱強四歩格の例としては、ルイス・キャロルの『ジャバウォックの詩』が挙げられます。以下のように、4つの弱強格で構成されています。


'Twas bril-lig, and the slithy toves / Did gyre and gimble in the wabe


また、バラッドの韻律では、弱強四歩格の行の後に弱強三歩格の行が続くことが多いです。例えば、エミリー・ディキンソンの『poem #712』では、以下のようになります。


Be-cause I could not stop for Death, / He kind-ly stopped for me

五歩格（pentameter）

弱強五歩格は、英語詩やドイツ語詩で非常に一般的な韻律であり、5つの弱強格が連続して1行を構成します。ウィリアム・シェイクスピアの『リチャード三世』の一節は、その代表的な例です。


A horse! A horse! My kingdom for a horse!

七歩格（heptameter）

弱強七歩格は、バンジョー・パターソンの詩に多く見られる韻律で、「fourteener」とも呼ばれます。


I s'pose the flats is pretty green up there in Ironbark.


また、サミュエル・テイラー・コールリッジの『老水夫行』でもこのパターンが使われていますが、一般的には、弱強四歩格と弱強三歩格の行が交互に配置される形で記述されます。

イアンボスの特性

古代ギリシアの哲学者アリストテレスは、イアンボスが日常会話に適していると指摘しました。一方で、荘重さに欠けるため、弁論には不向きであるとも述べています。また、風刺詩にイアンボスが用いられるのは、その性質が風刺詩に適しているためであるとされています。

このように、イアンボスは多様な形式で詩のリズムを形成し、詩の表現に深みを与える重要な要素となっています。

参考文献

アリストテレース『詩学』ホラーティウス『詩論』訳・松木仁助、岡道男（岩波文庫）
アリストテレス『弁論術』訳・戸塚七郎（岩波文庫）

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